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- USPTO、出願人向け「Pre-Docketing Notice」パイロットプログラムを開始
米国特許商標庁(USPTO)は、特許出願人がより適切な意思決定を行えるよう支援することを目的として、新たなパイロットプログラム「Pre-Docketing Notice」の運用を開始しました。本プログラムでは、審査官による実体審査が開始される予定日の約3か月前に、対象となる米国非仮出願(Utility Nonprovisional Patent Application)の出願人へ通知が送付されます。 この通知は、出願が実体審査に近づいていることを事前に知らせるものであり、出願人に対して発明者情報や権利者情報などの内容を確認し、必要に応じて修正・更新する機会を提供します。また、予備補正書(Preliminary Amendment)や情報開示陳述書(IDS)の提出など、審査の効率化や将来的な拒絶理由の回避につながる手続についても案内されます。 さらに、すでに権利化の意向がなくなった出願については、速やかに明示的放棄(Express Abandonment)を検討するよう促しています。一定の条件を満たした場合には、調査手数料や超過クレーム料金の返還を受けられる可能性があり、不要な出願を審査待ちキューから取り除くことで、USPTOの審査リソースの有効活用にもつながります。 なお、本通知に対する応答は必須ではなく、何ら対応を行わない場合でも出願は通常どおり審査へ進みます。USPTOは本パイロットプログラムを通じて、審査開始前の事前通知が出願人の行動や出願管理にどのような影響を与えるか、また予備補正などの活用によって審査の質や効率が向上するかを検証する予定です。 本制度は、出願人に対する透明性の向上と、より効率的な特許審査の実現を目指す取り組みとして注目されます。
- USPTO、NOA発送遅延を大幅改善
USPTO(米国特許商標庁)はこのほど、特許出願における「Notice of Allowance(特許査定通知)」の発送遅延を大幅に改善したことを発表しました。近年、特許出願件数の増加や限られた人的リソースへの対応により、NOA(特許査定通知)の発送に関する処理負荷が高まり、発送までの期間が課題となっていました。 こうした状況を受け、USPTOは2026年初頭に10名体制の専門チームを立ち上げ、NOA業務フローの全面的な見直しを実施しました。業務プロセスを詳細に分析した結果、従来手作業で行われていた工程の一部について自動化や効率化を推進し、1件あたり平均25分を要していた処理時間を約6分まで短縮することに成功しました。 改善前は、週あたり約6,000~7,000件のNOA処理にとどまり、発送待ち案件の滞留が続いていましたが、業務改善後は週あたり約15,000件まで処理能力が向上し、NOA発送 backlog はほぼ解消されたとしています。 USPTOは今回の成果について、業務改善とデジタル化を通じた効率向上の好例であると説明しており、特許出願人および審査官双方にとって迅速な権利化につながる重要な取り組みであるとしています。今後も「America’s Invention Agency」として、強く価値ある特許を迅速に成立させるための体制強化を進めていく方針です。
- USPTO、PCT Informed Examination Request(PIER)パイロットプログラムに基づく情報提出要求を開始
米国特許商標庁(USPTO)はこのたび、PCT(特許協力条約)に基づく国際段階の成果物を活用した審査運用を目的とする「PCT Informed Examination Request(PIER)パイロットプログラム」に関する官報通知を公表しました。本プログラムは、PCT国際段階で作成された調査報告書や見解書などを踏まえ、出願人に審査継続の意思確認を求めることで、審査効率や滞貨削減への効果を検証するものです。 2026年5月21日より、USPTOは対象となる未審査の米国国内移行出願に対して、本プログラムに基づく情報提出要求(Requirement for Information:RFI)の発行を開始します。対象案件は、審査待ち期間の長い技術分野を中心に、出願からの経過期間などを考慮してUSPTOが選定します。特に、国際段階の成果物において「X」または「Y」区分の引用文献が含まれている出願が優先的に選ばれる予定です。 PIERプログラムの対象として選定された場合、USPTOは国際段階の成果物を参照したRFIを発行し、出願人に対して、審査を継続するか、12か月間審査を延期するか、または明示的に出願を放棄するかの選択を求めます。審査継続を希望する場合には、必要に応じて予備補正書を提出し、審査に適した状態へ整えることも可能です。 RFIはUSPTOフォーム「PTO-2357」により発行され、出願ファイルには「PIER.RFI」の文書コードで記録されます。なお、PIER対象案件において放棄扱いを回避するためには、出願人はUSPTOフォーム「PTO/SB/478」を用いて、期限内に適切な応答を行う必要があります。 本プログラムへの組み入れはUSPTOの裁量によって決定され、出願人側から参加申請や除外申請を行うことはできません。 USPTOは、本パイロットを通じて、審査着手前の段階で出願人に事前通知を行い、さらに審査時期に柔軟性を与えることで、出願人の判断や出願管理にどのような影響を与えるかを検証するとしています。また、審査直前に提出される補正書が審査効率向上につながるかについても評価対象となります。USPTOは、国際段階の成果物を踏まえて出願人に今後の対応方針を確認することが、特許審査の品質向上や審査滞貨・審査期間の削減に寄与することを期待しています。 https://www.uspto.gov/patents/basics/international-protection/patent-cooperation-treaty/pier-program?utm_campaign=subscriptioncenter&utm_content=&utm_medium=email&utm_name=&utm_source=govdelivery&utm_term=
- USPTO、AI検索パイロットプログラム「ASAP!」を延長—制度評価に向けたデータ収集を継続
米国特許商標庁(USPTO)は、人工知能を活用した先行技術調査を促進するパイロットプログラム「Artificial Intelligence Search Automated Pilot Program(ASAP!)」について、その有効性を評価するための追加データ収集を目的に、実施期間を2026年6月1日まで延長した。 USPTOはこれまで、各技術分野(Technology Center:TC)ごとに少なくとも400件、全体で3,200件以上の特許出願を対象として受け入れる方針を示しており、今回の延長期間中も、各TCにおいて400件の採択案件が確保されるか、または期限に達するまで参加申請の受付を継続する。さらに、同プログラムへの参加を促進するため、2026年3月23日以降に提出される所定の請願については手数料が免除される措置も講じられた。申請には電子的に提出される専用フォーム(PTO/SB/470)の利用が求められており、出願と同日にPatent Centerを通じて提出する必要がある。本プログラムは、AI技術を活用した効率的な審査プロセスの実現に向けた重要な試みとして注目されている。 詳しくは、下記サイトをご参照ください。 https://www.uspto.gov/patents/initiatives/automated-search-pilot-program?utm_campaign=subscriptioncenter&utm_content=&utm_medium=email&utm_name=&utm_source=govdelivery&utm_term=
- USPTO、未審査特許出願削減で歴史的転換点 審査迅速化と品質向上を同時に実現
米国特許商標庁(USPTO)は、特許審査の迅速化と未審査出願の削減において大きな節目を迎えた。約10年ぶりに、年度内の初回審査通知件数が新規出願件数を上回り、さらに累計処理件数が累計出願件数を超過したことで、長年課題とされてきた未審査案件の滞留に対し、明確な改善の兆しが示された。この動きは、審査体制が需要に対して追いつき始め、いわば「申請者側に有利な流れ」へと転換したことを意味する重要な指標といえる。 2026年4月6日時点で、未審査特許出願の在庫は776,995件となり、2025年1月の837,928件というピークから大幅に減少し、過去2年間で最低水準に到達した。USPTOは例年、生産性が高まる第3・第4四半期にかけて処理能力が向上する傾向にあり、今後も未審査件数は着実に減少していく見通しである。注目すべきは、こうした削減が単なる量的処理の加速ではなく、特許品質に関する法定基準をすべて満たした上で達成されている点であり、審査の質と効率の両立が進んでいることを示している。 さらにUSPTOは、長期間放置されてきた案件への対応も進めており、36か月を超える未審査出願の在庫をほぼ解消するという積極的な目標についても、前倒しでの達成が視野に入っている。審査待ち期間の短縮は出願人にとって極めて重要であり、USPTOの試算では、審査期間が1週間短縮されるごとに米国企業の価値が平均約35,000ドル向上するというデータも示されている。この点からも、今回の改善は単なる行政効率の向上にとどまらず、企業活動やイノベーション創出に直接的な経済効果をもたらすものといえる。 ジョン・A・スクワイアーズ長官は、こうした成果の背景として、審査官の高い専門性と献身的な取り組みに加え、AI技術の導入による業務支援や審査官の増員計画の進展を挙げている。また、新たな審査指針や判例(Desjardins)および開示プログラムの導入により、より多くの出願を適切に受け入れつつ審査を進めている点も強調した。これらの複合的な施策により、審査効率、品質、処理能力という三つの主要指標が同時に改善方向へと向かっている。 今回の一連の成果は、USPTOが単なるバックログ解消にとどまらず、持続的かつ高品質な審査体制へと移行しつつあることを示すものであり、米国のイノベーション基盤の強化を裏付ける重要な動きとして注目される。今後の動向次第では、グローバルな特許審査のベンチマークとしての位置づけにも影響を与える可能性がある。
- USPTOによる新たな審査効率化施策「PIERパイロットプログラム」の導入について
米国特許商標庁(USPTO)は、特許審査の効率化および審査待ち案件の削減を目的として、「PCT Informed Examination Request(PIER)パイロットプログラム」を導入することを発表しました。本プログラムは、PCT国際段階で作成された調査報告書や見解書を踏まえ、出願人自身に審査の進行可否を判断させる新たな枠組みです。 本プログラムへの参加は出願人から申請するものではなく、USPTOが未審査のPCT国内移行出願の中から対象案件を選定する仕組みとなっています。そのため、出願人は自ら参加申請や離脱を行うことはできず、選定された場合にのみ対応が求められます。 対象案件に選ばれた場合、USPTOは国際段階の成果物(ISR、WO、IPRP等)を参照した「情報提供要求(Requirement for Information)」を発行し、出願人に対して今後の対応方針を示すよう求めます。出願人は、審査を進めるか、最長12か月の審査延期を選択するか、または出願を明示的に放棄するかのいずれかを選択しなければなりません。この応答は、USPTO指定の様式である「PTO/SB/478」を用いて行う必要があり、同フォームには該当する選択肢をチェック形式で明示する仕組みが採用されています。 特に審査を進める場合には、当該フォームを通じて意思表示を行うことで、案件は審査官の審査待ちリストに組み込まれます。また、必要に応じて予備補正を行い、審査に適した状態へ整えることも可能です。一方、審査延期を選択した場合は、追加費用なしで最大12か月間の猶予が与えられ、その期間中に発明の事業性や権利化の必要性を再検討することができます。なお、指定期間内に適切な応答がなされない場合、出願は放棄されたものとみなされる点に留意が必要です。 USPTOは、本プログラムを通じて出願人の意思決定プロセスを審査制度に組み込むことで、不要な審査の削減や審査品質の向上を図るとともに、制度全体の効率改善への効果を検証する方針です。PCT出願を活用する企業や実務家にとって、本制度は審査戦略に直接影響を与える重要な施策であり、今後の運用動向が注目されます。 https://public-inspection.federalregister.gov/2026-06903.pdf
- USPTOによるAI検索自動化パイロットプログラム(ASAP!)の参加促進措置
米国特許商標庁(USPTO)は、Artificial Intelligence Search Automated Pilot Program(ASAP!)への参加における経済的障壁を軽減するため、2026年3月23日以降に提出される所定の様式(Form PTO/SB/470)を用いた参加申請について、37 CFR 1.182に基づく請願に通常課される手数料(37 CFR 1.17(f))を職権で免除する措置を発表した。 さらに、同プログラムの受け入れ枠も拡大され、各技術センター(TC)ごとに少なくとも400件、全体で3,200件以上の特許出願が対象として受理される予定となっている。申請受付は2026年4月20日まで、または各TCにおいて400件の受理枠が満たされるまでのいずれか早い時点で終了する。この措置は、AIを活用した先行技術調査の実証を促進し、出願審査の効率化および品質向上を図るUSPTOの取り組みの一環として位置付けられる。 https://www.uspto.gov/patents/initiatives/automated-search-pilot-program?utm_campaign=subscriptioncenter&utm_content=&utm_medium=email&utm_name=&utm_source=govdelivery&utm_term=
- 外国出願人に米国特許代理人の選任を義務付け―USPTOが最終規則を公表
米国特許商標庁(USPTO)は、特許実務に関する規則を改正し、米国外に住所(ドミサイル)を有する特許出願人および特許権者に対して、USPTOに登録された特許代理人(パテントエージェントまたは米国特許弁護士)による代理を義務付ける最終規則を公表した。本規則は、米国外の出願人・発明者および特許権者が米国で特許手続きを行う際には、必ずUSPTO登録実務家を通じて手続きを行う必要があることを明確にするものである。 今回の改正の背景には、国際的な制度調和の要請がある。多くの国では、外国出願人に対して自国の資格を有する代理人の選任を義務付けており、米国もこれに歩調を合わせる形となる。また、USPTOは、近年、代理人を介さない出願(いわゆるプロセ出願)に対する対応に多くのリソースを割いており、審査効率の低下が課題となっていた。本規則により、提出書類の品質向上と手続の標準化が期待され、審査の迅速化にも寄与するとされている。 さらに、虚偽の手数料減免申請や不正確な申告、誤認を招く提出書類の増加といった問題への対応も重要な目的とされている。登録特許代理人はUSPTOの職業倫理規則および懲戒制度の対象となるため、適正な手続の確保や不正行為の抑止が強化される。これにより、米国特許制度全体の信頼性と透明性の向上が図られる。 本規則は、連邦官報掲載から120日後に施行される予定であり、施行日以降に提出されるすべての書類に適用される。外国居住の出願人であっても出願自体は可能であるが、その後の手続や補正、各種申請には登録特許代理人の関与が不可欠となる点に留意が必要である。今回の改正は、米国における特許実務の国際整合性を高めるとともに、審査運用の効率化と制度の健全性確保を目的とした重要な制度変更といえる。 https://www.federalregister.gov/documents/2026/03/20/2026-05564/required-use-by-foreign-applicants-and-patent-owners-of-a-patent-practitioner
- 生成AIの利用と米国特許訴訟における秘匿特権 ― Heppner判決が示す実務上の示唆
近時、生成AIの利用が弁護士秘匿特権(attorney-client privilege)やワークプロダクト特権を自動的に失わせるのではないかとの議論が広がっています。2026年2月17日にニューヨーク南部地区連邦地裁が言い渡した United States v. Heppner 判決は、この論点に明確な方向性を示しました。ただし、この判決は生成AIを特権と両立しないものと断じたわけではありません。裁判所は、あくまで従来の技術中立的な特権法理を新しい技術に適用したにすぎません。 Heppner事件では、被告人が弁護士を選任した後、自らの判断で公開型生成AIプラットフォームを用い、防御戦略や法的主張を整理した文書を作成しました。その後、それらを弁護士と共有し、秘匿特権およびワークプロダクト特権を主張しました。しかし裁判所は、当該文書は保護されないと判断しました。理由は明快です。第一に、生成AIは弁護士ではなく、弁護士との信認関係も存在しません。第二に、利用規約上、入力情報が保存・利用・第三者開示され得る以上、合理的な秘密期待が認められませんでした。第三に、弁護士の指示や監督の下で作成されたものではなく、弁護士の思考過程を反映する資料ともいえませんでした。裁判所は、特権の有無は「誰が、どのような関係性の下で、どのような秘密保持構造のもとに」作成したかによって決まると整理しました。 この判断は刑事事件におけるものですが、その法理は米国特許訴訟にも十分に波及し得ます。特許訴訟においても、弁護士秘匿特権およびワークプロダクト特権は連邦共通法に基づき判断され、基本的な三要件テストは巡回区を問わず概ね共通です。したがって、企業の技術者や知財部門担当者が公開型生成AIを用いて非侵害論、無効理由、クレーム解釈案、FTO分析などを独自に作成し、後に弁護士へ共有した場合、Heppnerと同様の理由で特権が否定される可能性があります。 特許訴訟では、特に故意侵害(willfulness)の立証が問題となる場面において、この論点は重大な意味を持ちます。社内担当者がAIに対して特許リスクを問い合わせた履歴が開示対象となれば、主観的認識やリスク認識の有無を裏付ける証拠として利用される可能性があります。特権が否定された場合、その影響は損害賠償の増額判断にまで及び得ます。 もっとも、Heppner判決は、弁護士の指示および監督の下で、守秘義務契約やデータ非学習条項を備えたエンタープライズ型AIを利用する場合まで否定したものではありません。従来の United States v. Kovel 判例に基づけば、弁護士が法的助言を提供するために第三者を補助者として関与させ、その者が守秘義務の下で業務を行う場合、特権は拡張され得ます。生成AIも、適切な契約構造と監督体制の下では、この枠組みで評価される余地があります。 したがって、問題の本質は「生成AIを使ったかどうか」ではありません。重要なのは、その利用が弁護士の関与のもとで行われたか、そして合理的な秘密保持体制が構築されていたかという点です。特許訴訟リスクを抱える企業にとっては、公開型AIへの機密入力を制限する内部ポリシーの整備、エンタープライズ契約の締結、そして訴訟関連分析を弁護士主導で実施する体制構築が不可欠となります。 Heppner判決は、新たなAI例外を創設したものではありません。それはむしろ、特権法理の核心が依然として「弁護士の関与」と「合理的な秘密期待」にあることを再確認したものです。生成AIの活用が拡大する現在、特許実務においても、その利用方法の設計こそが、将来の訴訟リスクを左右する重要な経営課題となっています。
- USPTO、SEPワーキンググループ始動とSPARKパイロット創設―標準化主導権の回復へ政策を本格化
米国特許商標庁(USPTO)は、標準必須特許(Standard-Essential Patent: SEP)を巡る政策対応を強化するために設置したSEPワーキンググループの活動を本格化させ、その第一弾施策として新たに「SPARK(Standards Participation and Representation Kudos)パイロットプログラム」を立ち上げると発表した。SEPの強力な権利保護を打ち出した前回発表に続き、今回は標準化活動への米国主体の参加を制度的に後押しする具体策が示された格好だ。 SEPワーキンググループは2025年12月29日に設置が公表され、USPTO長官John A. Squires氏の直轄組織として運営されている。同グループは、標準技術に組み込まれた特許の救済強化、標準策定プロセスへの広範な参加促進、そしてライセンス交渉の透明性向上を三本柱として掲げている。近時USPTOは、差止め救済の実効性を重視する姿勢を明確にしており、連邦地裁および米国国際貿易委員会(ITC)への意見提出を通じて、有効特許の排他的権利は公共の利益に資するものであるとの立場を打ち出してきた。SEPであっても通常特許と同様に強力かつ予測可能な救済が与えられるべきであるという政策方向が鮮明になっている。 こうした権利保護強化の方針と並行して、今回発表されたSPARKパイロットプログラムは、標準化団体(SDO)への実質的な参加を促進するためのインセンティブ制度として設計されている。通信、人工知能、製造業、サイバーセキュリティといった分野では技術標準が市場アクセスや競争環境を左右するが、中小企業、大学、非営利団体などは資源制約のために標準策定活動への継続的な関与が困難であるという構造的課題が指摘されてきた。 SPARKはこの課題に対処するため、SDO活動において技術的貢献や実質的参加を行った適格な米国主体に対し、限定数の「アクセラレーション証明書」を付与する制度である。この証明書はUSPTOにおいて特許出願審査や特許審判部(PTAB)における審理の迅速化に利用できる。標準化活動に要する時間的・財政的コストを、審査加速という具体的価値によって相殺する設計となっている点が特徴的である。 Squires長官は、標準化分野における米国のリーダーシップはイノベーション、競争力、国家安全保障の観点から不可欠であると述べ、小規模主体が持つ専門性と革新的思考を標準策定の場に十分反映させる必要性を強調した。SPARKは、SEPワーキンググループ設立後初の具体的施策であり、今後予定される他のイニシアティブとともに、米国発技術の標準組み込みを促進する制度的枠組みの一部を構成する。 今回の一連の発表は、単なる参加促進策にとどまらず、SEP政策全体の再構築を示唆している。すなわち、特許権の実効的保護を前提としつつ、標準策定段階から米国主体の関与を強化することで、標準化と特許戦略を統合的に捉えるアプローチである。差止め救済の回復と標準化参加支援という二つの政策軸は相互補完的に機能し、標準必須技術における交渉力と市場影響力の強化を志向している。 国際的には、中国が国家戦略として標準関連特許の蓄積を推進し、欧州ではSEP規制制度の整備が進むなど、標準化と知財を巡る競争は激化している。こうした環境下で、USPTOがSEP保護の強化と標準化参加支援を同時に打ち出したことは、米国の技術標準政策が攻勢に転じつつあることを示すものといえる。 SPARKの詳細な適格要件や申請手続、条件等は今後公表される予定であるが、今回の発表は明確な政策メッセージを含んでいる。すなわち、標準化の場における技術的貢献を正当に評価し、その成果を強力な特許保護と結び付けることで、米国のイノベーション・エコシステム全体を強化するという方向性である。SEPワーキンググループの今後の施策展開とあわせ、その具体化の動向が注目される。 以下、SEPワーキンググループについて、2025年12月29日に設置が公表 USPTO、標準必須特許ワーキンググループを設置―SEPの強力な権利行使を明確化 米国特許商標庁(USPTO)は、標準必須特許(Standard-Essential Patent: SEP)に関する政策対応を強化するため、新たに「SEPワーキンググループ」を設置したと発表した。本グループはUSPTO長官John A. Squires氏の直轄組織として設置され、標準技術に組み込まれた特許の権利行使を巡る政策課題に対し、制度的かつ継続的に取り組む体制を構築する。共同議長にはUSPTO副法務顧問(知的財産法担当)Nicholas Matich氏および上級法律顧問Austin Mayron氏が就任する。 今回の発表は、近時USPTOが示してきた「強力かつ予測可能な特許救済の回復」という政策方針を、SEP分野において制度化するものと位置づけられる。通信、自動車、AIなどの分野において技術標準は市場形成の基盤となっており、多くの標準には特許技術が組み込まれている。これらのSEPは、技術の相互運用性を実現する一方で、ライセンス交渉や差止めの可否を巡り長年にわたり議論の対象となってきた。 USPTOは今回の発表において、SEPを取り巻く環境が特許権者にとって「ますます厳しいものになっている」との認識を示した。具体的には、特許価値の過小評価、ライセンス料の抑制、差止め救済の制限といった傾向が、技術標準に貢献する発明者のインセンティブを損なっているとの問題意識を明確にしている。特に、差止めの利用が過度に制限されることは、特許制度の根幹にあるイノベーション促進機能を弱体化させるとの立場を強調している点が注目される。 実際、USPTOは近時、司法および行政手続に積極的に関与している。2025年6月のRadian Memory Systems LLC対Samsung Electronics事件では、仮差止めが不当に制限されることは特許法の趣旨に反するとする意見書を提出し、特許侵害においては損害額算定の困難性自体が回復不能損害を構成し得ると明言した。また、同年11月には米国国際貿易委員会(ITC)におけるDRAM関連事件で初めて公的意見を提出し、有効な特許権を排除命令によって保護することは公共の利益に合致するとの立場を示した。これらの動きは、SEPを含む特許権に対する救済の実効性を回復させる方向性を明確にするものである。 新設されるSEPワーキンググループは、三つの主要目標を掲げている。第一に、有効な特許権に対する強力で予測可能な救済の回復である。SEPであっても一般特許と同様に適切な差止めおよび排他的権利の行使が認められるべきとの考え方が基礎にある。第二に、標準化団体(SDO)への参加を促進し、特に中小企業やスタートアップが標準策定プロセスに参画しやすい環境を整備することが掲げられている。第三に、特許権者、実装企業、標準化団体などのステークホルダーとの対話を強化し、SEPライセンス交渉および標準策定における透明性と予測可能性を高めることである。 今回の発表は、過去十数年にわたり続いてきたSEP差止め抑制的な政策傾向からの転換を示唆するものとも評価できる。特に、特許権と反トラスト法は対立関係にあるのではなく補完的関係にあるとの認識を強調している点は重要である。標準化を通じて市場を創出し、技術革新を社会実装につなげるためには、特許権の実効的保護が不可欠であるという政策思想が前面に打ち出されている。 国際的にもSEPを巡る政策環境は変化しており、中国は国家戦略として標準関連特許の取得を推進し、欧州ではSEP規制制度の導入が議論されている。こうした中、米国が特許保護の強化を通じて技術標準分野での競争力回復を図る姿勢を明確にしたことは、グローバルな知財戦略にも影響を与える可能性がある。 SEPワーキンググループの具体的な政策提言やガイダンスの内容は今後明らかになるが、少なくとも現時点で示されたメッセージは明確である。すなわち、有効な特許権には強力な救済が与えられるべきであり、標準技術への貢献は正当に評価されなければならないということである。SEPを巡る法政策の重心が、改めて特許権保護の強化へと傾きつつあることを示す動きとして、今後の展開が注目される。 USPTO News: https://www.uspto.gov/subscription-center/2025/uspto-announces-sep-working-group?utm_campaign=subscriptioncenter&utm_content=&utm_medium=email&utm_name=&utm_source=govdelivery&utm_term=
- USPTO、特許付与証のセレモニアルコピーをオプトイン方式へ移行 ― 2026年3月9日開始
米国特許商標庁(USPTO)は、2023年4月18日に紙の特許証の発行・郵送を終了し、電子特許付与(eGrant)へ完全移行しました。これに伴い、これまで全ての特許権者に対して、記念用としてのセレモニアルコピー(儀礼用特許証)が自動的に送付されてきました。しかし、多くの出願人から「セレモニアルコピーを利用していない」「必要な場合のみ受け取りたい」といった声が寄せられていました。 こうした利用者のフィードバックを受け、また需要に即した効率的なリソース配分を行うため、USPTOはセレモニアルコピーの提供方法を見直し、今後は希望者のみが受け取れる「オプトイン方式」を導入します。この変更により、年間約250万ドルの印刷・郵送コスト削減が見込まれており、USPTOはその分のリソースを、利用者にとってより重要なサービスへ振り向けるとしています。 新しい運用は2026年3月9日から開始されます。同日以降、特許付与時にセレモニアルコピーを受け取りたい場合は、発行料支払い時に提出するPTOL-85(Part B)において、「Ceremonial Copy」のチェックボックスを選択する必要があります。これ以降は、オプトインした出願人、または2026年3月9日以前に発行料を支払った出願人のみが、セレモニアルコピーを受け取ることになります。 なお、新制度の対象となる出願で、発行料支払い時にチェックを入れ忘れたものの、後からセレモニアルコピーを希望する場合には、一定の救済措置が設けられています。2026年6月9日までに、特許番号を明記した上でeGrants@uspto.gov宛にメールで申請すれば、適切な申請と判断された場合に限り、登録されている連絡先住所へ1部のみセレモニアルコピーが送付されます。 改めて強調されている点として、法的に有効な正式な特許付与文書はあくまでeGrantであり、セレモニアルコピーは記念的な位置づけに過ぎません。プレゼンテーション用コピーや認証謄本など、その他の公式コピーは、従来どおりCertified Copy Centerから取得可能です。eGrant自体は、引き続きPatent Centerを通じて閲覧・利用することができます。 今後、米国特許出願を行う企業や代理人にとっては、発行料支払い時の手続において、セレモニアルコピーの要否を明確に判断・管理することが重要になります。 USPTO News: https://www.uspto.gov/subscription-center/2026/opt-option-courtesy-ceremonial-copies-egrants
- USPTO、米国外所在の特許出願人・特許権者に登録特許実務者による代理を義務化する規則改正案を公表
米国商務省・米国特許商標庁(USPTO)は、特許出願人および特許権者のうち、 住所(自然人)または主たる事業所(法人等)が米国または米国領内にない当事者 (以下、米国外所在の出願人/発明者・特許権者)について、 登録特許実務者(登録特許弁護士・登録特許代理人等)による代理を必須 とするため、特許実務規則(37 CFR Part 1)の改正を提案しています。USPTOは、この代理人必須化により、米国の運用を国際標準に近づけるだけでなく、手続運営の効率とコンプライアンスを高め、虚偽申請等への対応力を強化できると説明しています。 本提案の背景としてUSPTOが挙げているポイントは、1) 第一に 他国審査当局との調和 です。多くの国では、外国出願人が現地の資格者(代理人)を通じて手続を行うことが義務づけられており、米国でも同様の枠組みを導入することで、国際的に整合した出願・権利管理の実務に近づける狙いがあります。2) 第二に 審査の効率化 であり、代理人を付けずに本人が直接手続する(pro se)ケースでは、方式不備や手続上の行き違いが生じやすく、USPTO側の事務処理や審査官対応に追加コストが発生しやすい点が課題とされています。3) 第三に 法令・規則の順守強化 で、登録特許実務者が関与することで、手続要件に沿った専門的な提出が期待でき、制度上求められるルール遵守の実効性が高まるとしています。4) 第四に不正・虚偽申請の防止(詐欺抑止)であり、登録特許実務者はUSPTOの職業倫理規則や懲戒制度の対象で、調査への協力義務等も負うため、虚偽の陳述や不正確な実体情報の記載、虚偽の資格・ステータス主張(例:手数料減免に関わる不適切な申告)といったリスクを低減し、制度の信頼性を高められると説明されています。 運用面では、代理が必要となる案件について、補正や応答書、出願人情報(ADS)、情報開示(IDS)、各種請願(優先審査申請等)などの提出書面は、原則として登録特許実務者の署名がなければ受理・記録されない方向で整理されています(他方で、発明者宣誓書など、性質上特定当事者の署名を要する書面は例外とされます)。また、特許権者が法人等である場合の代理人要件も明確化され、成立後の局面を含めた手続の適正化を図る内容となっています。 本提案はパブリックコメントの対象で、 意見提出期限は2026年1月28日 です。コメントは政府の電子規則制定ポータル(regulations.gov)から、ドケット番号「 PTO-P-2025-0008 」を検索し、該当案件の「Comment」機能を通じて提出します。提出内容は公開されるため、公開を望まない個人情報(住所・電話番号等)は記載しないことが推奨されています。












