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USPTO特集:特許審査官の役割とFY26 PAP改訂

  • IPBIZ DC
  • 11月7日
  • 読了時間: 4分

米国特許商標庁(USPTO)の特許審査官は、発明の保護と技術進歩の促進において中心的な役割を担っている。出願書類の形式や内容を確認し、先行技術を調査した上で、特許法第35編の要件に照らして特許性を判断することが彼らの基本的な職務である。これにより、知的財産制度の信頼性を確保し、イノベーションや投資、雇用の創出といった経済的効果にも直接的に寄与している。

 

2026会計年度(FY26)から施行される新しい特許審査官の業績評価計画(PAP)では、評価基準の重点が明確に見直された。従来の「生産性」「品質」「ドケット管理」「プロフェッショナリズム/ステークホルダー対応」の4要素のうち、「生産性」と「品質」の比重がいずれも40%へ引き上げられ、評価上の重要度が大幅に高まっている。従来95%以上で「達成」とされていた業績水準も、FY26では100%以上が「十分な達成(Fully Successful)」と定義され、審査官にはより厳密で透明性の高い成果管理が求められるようになった。この改訂の狙いは、審査の迅速化だけでなく、初期段階から高品質な審査結果を生み出す文化を根付かせる点にある。

 

この中でも特に注目すべき変更点が「審査官インタビュー(Examiner Interview)」に関する規定である。従来のFY25制度では、審査過程でインタビューを行えば一律で1時間分の属性時間が付与されていたが、FY26では「新規出願または継続審査請求(RCE)、あるいは意匠のCPA(Continued Prosecution Application)」ごとに1時間と定められた。つまり、案件単位で時間が管理される仕組みに改められ、追加のインタビューを行うには監督審査官(SPE)の承認が必要となる。これは、審査官の業務負担を考慮しつつ、インタビューをより効果的で目的志向的な手段として位置づける狙いがある。実際、2025年度の統計では、許可・放棄・再出願に至った案件のうち、約6割にインタビューが行われており、今や面談は審査の中核的プロセスになっている。

 

このような背景のもと、出願人や代理人はインタビューの質とタイミングを戦略的に設計する必要がある。インタビューの実施タイミングについては、従来のように非最終拒絶(Non-Final Office Action)の直後に一律で行うのではなく、今後は案件の内容や応答方針に応じて慎重に判断する必要がある。非最終拒絶後すぐに面談を設定することが必ずしも最善とは限らず、クレーム補正を行わずに反論のみで応答する場合には、拒絶理由や引用文献の理解に相違がないかを審査官と直接確認し、出願人の技術的立場を丁寧に説明する場としてインタビューを活用するのが効果的である。一方で、同じ拒絶理由が繰り返された場合には、審査官側に誤解や見落としがある可能性も考えられるため、面談によって認識のずれを正すことが重要となる。また、secondary consideration、すなわち予期しない効果(unexpected results)など補足的な証拠を提示して進歩性の主張を補強する必要があるケースでは、書面のみで伝わりにくい技術的背景を説明し、証拠の位置づけを明確にするためのインタビューが極めて有効である。このように、FY26ではインタビュー時間が案件ごとに限られていることを踏まえ、単に非最終拒絶の直後に面談を行うのではなく、応答方針、審査経過、補足証拠の有無などを総合的に検討し、ケースバイケースで最も効果的なタイミングを選択することが、戦略的な特許実務の鍵となる。

 

さらに、インタビューを実りあるものにするためには、1時間という限られた時間を最大限に活用する準備が欠かせない。事前に目的を一つに絞り込み、議題と所要時間を提示して臨むことが望ましい。たとえば、争点が明確であれば「どの補正案が許容可能か」「引用文献のどこが問題なのか」といった具体的な質問を投げかけることができる。審査官が最も重視するのは、明確で説得力のある論理展開と、発明の中核的特徴を技術的・法的観点の両面から説明する能力である。

 

FY26では、審査官が1件ごとに確保できるインタビュー時間が限られるため、漫然とした議論では成果につながらない。したがって、面談では「この論点に合意が得られれば、この補正案を提出する」といった条件付き提案を用意しておくとよい。審査官の理解を深める資料(構成比較表や効果実証データなど)を簡潔に示すことで、会話を論点中心に保つことも重要である。

 

また、特許審査高速化制度(PPH)案件の場合は、他国の特許庁で許容済みのクレームが含まれているため、米国基準との整合性確認が主な目的となる。インタビューでは、他庁の審査結果を踏まえた迅速な合意形成を意識すると効果的である。

 

このように、FY26の制度下では、出願人側にも「1件につき1時間」の面談をいかに成果につなげるかという“戦略的マネジメント”が求められている。早期の論点整理と合意形成、そして補正方針を事前に明確化したうえで臨むことが、審査官との対話を成功に導く鍵である。審査官インタビューは単なる手続きではなく、出願の方向性を定める最も重要な交渉の場であり、その準備とタイミングが最終的な特許付与のスピードと確実性を左右する時代になったといえる。


 

 
 

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