特許税案 ~イノベーション政策の転換点か?
- IPBIZ DC
- 2025年9月21日
- 読了時間: 4分
アメリカでは近年、政府の歳入確保や財政赤字是正、さらには知的財産をめぐる国際競争での公平性を高める観点から、特許保持者に対する新たな課税制度の検討が進められています。トランプ政権下では、既存の特許維持手数料制度が大きく見直される可能性が報じられており、その焦点となっているのが、特許の価値を基にした年次課税的な手数料制度です。
現在検討されている制度は、特許の評価額に応じて1パーセントから5パーセント程度の年次課税的な手数料を課すものであり、既存の維持手数料に追加される、あるいはそれに代替する形になると見られています。対象はすべての特許保持者ですが、特に価値の高い特許を多数保有する企業に大きな影響を及ぼすと考えられています。制度の目的は、連邦政府の歳入源を拡大し、財政赤字を縮小することに加え、収益を生む知財をより適切に評価して負担を求めることで公平性を高めることにあります。また、特許を低税率国やオフショアに移転する行為を抑制する効果も期待されています。
この制度案は、トランプ政権下で商務長官に就任したハワード・ラトニック氏の下で検討されている特許維持手数料制度の抜本的な見直しの一環として報じられています。従来の定額制維持費では発明の商業的価値や収益性が十分に反映されないという批判を背景に、特許の評価額に応じた課税的手数料制度を導入する方向性が示されました。米国の大手法律事務所や知財専門誌(IAM、Cleary Gottlieb、Fahey IP Law、THIP Lawなど)がこの動きを伝えており、政策議論が現実の制度化に向かいつつあることを示しています。
この提案が導入された場合、イノベーション活動全体に大きな影響を及ぼすことが予想されます。特にバイオテクノロジーや医薬品、量子コンピューティングや人工知能の分野など、研究開発に長い期間と巨額の投資を要する産業においては、特許維持のコストが事業リスクを押し上げる可能性があります。また、中小企業やスタートアップにとっては、商業収益をまだ生んでいない特許であっても高額の評価を受けることが負担となり得るため、資本力のある大企業と比べて不利に立たされるリスクが懸念されます。さらに、特許の「価値」をどのように評価するのかという点が制度設計の核心となるため、評価基準の透明性や公平性が確保されなければ、紛争や訴訟が増加する可能性も否めません。
加えて、米国だけがこのような制度を導入すれば、国際的な競争力の低下や特許ポートフォリオ戦略の見直しを余儀なくされる恐れがあります。多くの国では依然として維持費は定額であり、米国特許の保持コストが際立って高くなれば、海外企業が米国での特許取得を控える動きも考えられます。すでに一部のバイオテック企業などでは市場が将来のコスト増を織り込み、株価に影響を与えているとの報道もあります。
この案に対しては、二重課税であるとの批判や、イノベーションを萎縮させるとの懸念が強く指摘されています。特に研究機関や大学、スタートアップなど、収益化までの時間が長い主体にとっては、特許を維持するための新たな費用が大きな障害となり得ます。したがって、制度の設計過程で免除規定や猶予期間、あるいは研究段階の発明に対する特例措置を導入することが不可欠と考えられます。
現時点では政策の最終形はまだ固まっていませんが、2025年中に商務省やUSPTOから正式な提案が示される可能性があり、その後の公聴会やパブリックコメントを経て制度化に向けた具体的な議論が進むと見られています。クライアントにおいては、制度化の動向を注視するとともに、特許の価値を裏付けるデータや証拠の整備、特許ポートフォリオの再評価、業界団体を通じた意見発信など、早期の対応を検討することが望まれます。
この制度は、特許を単なる権利の維持コストから「価値に基づく資産」として位置づけ直すものです。制度設計の行方によっては、特許戦略そのものを大きく変える可能性があります。知財の保護と事業展開を両立させるためには、先手を打った準備が重要となるでしょう。




