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- 特許適格性の誤用を正し、イノベーションの未来を守る ― Squires長官の声明に見る第101条の本質
Squires長官の声明には、米国特許法第35条第101項(特許適格性)の誤った運用を正すべきだという強い主張が込められている。長官は、101条は本来、発明が特許保護の対象となる基本的な分野を定めるための「入り口規定」であり、発明の新規性や進歩性、記載要件といった他の審査要素とは区別されるべきだと述べている。にもかかわらず、近年のMayo判決やAlice判決以降、裁判所や特許庁の一部ではこの条項が過度に拡大解釈され、抽象的と見なされる発明や自然法則に関連する技術が広範に排除される傾向が強まっている。その結果、人工知能や金融技術、診断技術といった実際に社会的・経済的価値を持つ発明までが特許不適格とされる事例が増えている。 長官は、MayoおよびAlice判決の本来の趣旨は、特許保護の対象から自然法則や純粋な抽象概念を除外するという限定的なものであり、特許制度全体を狭める意図はなかったと指摘する。したがって、これらの判例を根拠に、発明分野全体を包括的に排除するような解釈は誤りであると明言している。彼はまた、AI関連の特許事例「Ex parte Desjardins」を引用し、当初は単なるアルゴリズムとして拒絶された機械学習技術が、再審で「具体的な技術的改善」と認定され、特許適格と判断されたことを紹介している。この事例は、ソフトウェアや人工知能の発明も、コンピュータの機能を実際に改善するものであれば特許の対象となりうることを再確認した重要な前例である。 Squires長官は、101条の誤用によって特許の門戸が不当に狭められることは、米国のイノベーションを阻害し、国家安全保障や経済成長、さらには国際的な技術競争力にも悪影響を及ぼすと警告している。発明の真価を判断するのは、102条(新規性)、103条(進歩性)、112条(記載要件)で行うべきであり、101条はその前段階で技術の多様性と創造性を包摂するための広範な基盤として運用されるべきだと強調する。特許適格性の範囲を広く明確に保つことは、米国がAI、量子技術、診断・医療分野など新興産業における世界的リーダーシップを維持するために不可欠であると結んでいる。 このように、Squires長官の声明は、特許制度の根幹である第101条を本来の理念に立ち返らせ、技術革新を支える法的環境を再構築するための明確な呼びかけとなっている。 https://www.uspto.gov/about-us/news-updates/statement-director-squires-united-states-senate-subcommittee-intellectual
- USPTO、新たな『簡素化クレームセット・パイロットプログラム』を発表——審査効率と品質向上を目指す新試み
米国特許商標庁(USPTO)は、特許審査の効率化と品質向上を目的として、新たに「簡素化クレームセット・パイロットプログラム(Streamlined Claim Set Pilot Program)」を開始することを発表しました。本プログラムは、出願に含まれるクレーム数を制限することで、審査期間(ペンデンシー)および審査品質にどのような影響があるかを検証することを目的としています。一定の条件を満たしたユーティリティ特許出願(実用特許出願)を対象に、迅速審査(special status)の対象として通常より早く審査を受けることができる制度です。 このパイロットプログラムでは、 独立クレームが1件以内、全体のクレーム数が10件以内 である出願が対象となります。複数従属クレームは認められず、また従属クレームは本通知に定められた依存形式に準拠している必要があります。応募資格を満たす出願人は、所定の様式に基づく「特別審査請求(petition to make special)」を提出することで、出願を審査順序の先頭に繰り上げることができます。受理された出願は、最初のオフィスアクション(First Office Action)が発行されるまで、迅速審査の対象として取り扱われます。 この新制度は、2025年10月27日から申請受付を開始し、2026年10月27日まで、または各技術センターが約200件の対象出願を受け付けた時点のいずれか早い時期まで実施されます。なお、技術分野によって応募状況が異なる場合や、業務量・運営リソースなどの要因により、USPTOの判断で早期に終了する可能性があります。終了時にはUSPTOが公的に通知を行い、同庁ウェブサイト上で各技術センターごとの申請数および受理数が公表されます。 このプログラムに参加するためには、 出願がオリジナルであり、継続出願・分割出願・一部継続出願ではないこと が条件とされています。すなわち、35 U.S.C. §120、121、365(c)、386(c) に基づく継続系出願は対象外です。ただし、プロビジョナル出願や外国出願に基づく優先権主張(35 U.S.C. §119)を行っている場合は参加に影響しません。また、ナショナルステージ出願(PCT経由の米国移行出願)は本プログラムの対象外となります。 出願人は、プログラムへの申請時に**「PTO/SB/472」フォーム(CERTIFICATION AND PETITION TO MAKE SPECIAL UNDER THE STREAMLINED CLAIM SET PILOT PROGRAM) を使用し、電子出願システム「Patent Center」から提出する必要があります。さらに、出願書類(明細書、クレーム、要約書)はすべて DOCX形式で提出していることが条件です。DOCX形式は審査効率とデータ品質を向上させるため、迅速審査の実現において重要な要素とされています。 また、プログラムへの参加にはいくつかの追加制限も設けられています。たとえば、同一発明者または共同発明者が、すでに3件を超える本プログラム申請を行っている場合は、新たな申請は認められません。これは、限られた審査リソースを公平に分配するための措置と考えられます。 さらに、非公開出願(nonpublication request)を行っている場合は、プログラム申請時までにその非公開請求を撤回する必要があります(PTO/SB/36フォームを使用)。本プログラムでは、審査の透明性とデータ活用を重視しており、公開出願であることが前提条件となっています。 USPTOはこの取り組みを通じて、審査官がより焦点を絞ったクレーム構成の出願にリソースを集中させることができるとしています。これにより、審査の効率化だけでなく、審査品質の向上、さらには審査バックログの削減につながることが期待されています。また、パイロットプログラムを通じて得られたデータは、将来の迅速審査制度の設計に役立てられる予定です。 今回の「簡素化クレームセット・パイロットプログラム」は、USPTOが2025年に廃止を予定している「加速審査制度(Accelerated Examination Program)」に代わる新しいアプローチとして注目されています。審査の迅速化と質の両立を目指すこの試みは、今後の特許審査制度の方向性を示す重要な一歩となるでしょう。 https://www.federalregister.gov/documents/2025/10/27/2025-19669/streamlined-claim-set-pilot-program
- USPTO、特許審査ハイウェイ(PPH)の新たなドケット運用を開始—迅速審査と制度の持続性を両立へ
特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway、PPH)は、国際的な特許出願の迅速化を目的とした制度であり、知的財産戦略を重視する企業や個人にとって、今や欠かせない仕組みとなっています。ある国の特許庁で特許可能と判断されたクレームについて、他の参加特許庁でも迅速な審査を受けられるという相互協力の枠組みは、グローバルなビジネス展開を行う上で大きな利点をもたらしています。先行する審査結果を活用することで、重複する審査負担を軽減し、出願人はより短期間で権利化を目指すことが可能になります。 2024年には、米国の出願人によるPPH申請件数が約11,000件に達し、制度の利用が定着していることがうかがえます。米国特許商標庁(USPTO)では、このうち約8,600件が同庁でのPPH出願であり、全体の出願のうち2%未満を占めています。件数の割合としては小さいものの、これらの出願の平均ファーストアクション・ペンデンシー(最初の審査結果が出るまでの期間)は約7.5か月と、通常出願よりもはるかに短い点が特徴的です。一方で、非PPH出願の審査期間は2020年には15か月未満であったのが、現在では22か月を超えており、審査の遅延が顕著になっています。このような背景のもと、USPTOはPPH制度の持続的な運用を確保するため、新しいドケット運用方針を導入しました。 新しい方針では、PPH出願の審査順序を非PPH出願のペンデンシーに応じて調整し、同一技術分野における非PPH出願の審査期間のおおよそ半分の期間でPPH出願を処理することを目標としています。つまり、非PPH出願の審査効率が改善されれば、その改善効果がPPH出願にも波及し、制度全体のバランスを保ちながら迅速な審査が維持される仕組みです。これにより、PPH出願は引き続き迅速審査の恩恵を受けながらも、全体として公平な審査リソースの配分が図られることになります。 USPTOのこの取り組みは、単に審査のスピードを追求するだけでなく、審査制度全体の健全性を確保し、長期的なPPH制度の価値を守ることを目的としています。PPHの本質は、各国の特許庁が信頼関係のもとに協力し、出願人が複数国でより円滑に特許権を取得できるようにする点にあります。今後もUSPTOは、非PPH出願の審査遅延を解消しながら、PPH制度を効果的に運用し続けることにより、すべての出願人にとってバランスの取れた特許審査環境を維持していく方針を示しています。 PPHの制度的意義は、国際特許戦略を考えるうえでますます大きくなっています。迅速化だけでなく、審査の効率性や予測可能性の向上、そして各国特許庁間の協力強化といった観点からも、今後の特許行政における重要な柱の一つであり続けるでしょう。
- 審理開始権を長官へ再集中 ― 公正性と透明性の回復へ
米国特許商標庁(USPTO)は、特許無効審判制度(IPR: Inter Partes Review)および特許付与後審査制度(PGR: Post-Grant Review)の運用方針を大きく転換する決定を発表しました。( https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/open-letter-and-memo_20251017.pdf?utm_campaign=subscriptioncenter&utm_content=&utm_medium=email&utm_name=&utm_source=govdelivery&utm_term= ) 2025年10月17日付で公表されたジョン・A・スコワイアーズ長官による公開書簡によると、審理開始の最終判断権限を特許審判部(PTAB)から長官自身に戻す方針が明確に示されています。これは、2011年に制定されたアメリカ発明法(AIA)の原則に立ち返り、特許制度の公正性と信頼性を再構築するための重要な改革と位置付けられています。 AIAの条文である35 U.S.C. §§ 314および324は、審理を開始できるのは「長官が請求人の主張に合理的な勝訴可能性があると判断した場合に限る」と明確に規定しています。しかし、実際の運用では長官の権限がPTABに委任され、PTABが審理開始を決定し、そのまま同じメンバーが審理を行うという仕組みが続いてきました。これに対し、スコワイアーズ長官は、制度上の公平性と独立性に対する懸念を指摘し、委任による構造的な問題を是正する必要があると判断しました。 長官は書簡の中で、過去の運用が「自己利益のように見える構造」を生み出していたことを認めています。PTABの業績評価や仕事量が審理件数に影響するため、結果的に「自らの案件を自ら増やす」ように見えるという印象が生じていたと述べました。また、審理開始率が一時期95%を超えていたことや、IPRに偏重した運用傾向にも懸念を示しています。これらの要素が、制度全体の公正性と透明性に対する信頼を損なう結果につながっていたと分析しています。 今回の決定により、今後の審理開始判断はUSPTO長官が直接行い、PTABは審理・判断に専念する体制へと移行します。この変更は、審理部門と判断部門の分離を明確にし、審理の独立性を確保することを目的としています。スコワイアーズ長官は、審理開始権の回復が「法の文言と国会の意図に忠実であり、制度の信頼性を強化するものだ」と強調しています。 今回の改革は、単なる内部的な権限移譲ではなく、米国特許制度全体の信頼回復を目指す動きといえます。審理開始の判断がより慎重かつ透明に行われることで、出願人・権利者・異議申立人のいずれにとっても、より予測可能で公正な制度運用が期待されます。一方で、長官が個別の審理開始を統括することにより、審理の「入口」で政策的または経営的な視点が反映される可能性も指摘されています。そのため、日本企業にとっては、米国での特許防衛や無効審判対応において、審理開始段階の戦略を再検討する必要があるかもしれません。 スコワイアーズ長官は書簡の締めくくりで、「公正で予測可能な特許制度こそが米国のイノベーションを支える礎である」と述べ、USPTOが引き続き世界をリードする知的財産保護機関であるためには、透明で信頼される運営が不可欠だと強調しました。今後、USPTOからは本件に関する新たな運用メモやガイドラインが公表される予定であり、実務への影響を注視することが求められます。 <コメント> この改革は、単なる組織内の権限移譲にとどまらず、「公正さ」と「信頼性」を軸にした米国特許制度の再構築とも言えます。日本企業にとっても、審理プロセスの変化が無効審判の戦略設計に影響を及ぼす可能性があり、早期の情報収集と方針調整が求められます。
- USPTO自動検索パイロットプログラム(Automated Search Pilot Program)と人工知能(AI)との新しい仕事のかたち
米国特許商標庁(USPTO)は、特許審査の効率化と品質向上を目的として、新たに「自動検索パイロットプログラム(Automated Search Pilot Program)」を開始する。このプログラムは、AIによる自動検索結果を審査前に出願人へ通知することで、出願段階での先行技術把握を促進し、審査の透明性と迅速化を図る試みである。出願人は、37 CFR 1.182 に基づく請願書を提出し、所定の請願料を支払うことで参加が可能となる。請願が認められると、USPTOはAIツールを用いた自動検索を実施し、その結果を「自動検索結果通知(Automated Search Results Notice: ASRN)」として出願人に送付する。ASRNは先行技術文献の上位10件を関連度順に示すもので、出願人はこれをもとに補正や審査猶予、または出願の放棄などを判断することができる。出願人によるASRNへの応答義務はなく、審査官もASRNの内容を参考情報として扱うに留まる。 このプログラムは2025年10月20日から申請受付を開始し、2026年4月20日または各技術センター(TC)が200件の参加申請を受け付けた時点のいずれか早い方で終了する予定である。全体として少なくとも1,600件の出願を対象に運用される見込みで、参加状況によっては延長される可能性もある。対象となるのは、2025年10月20日以降に電子的に特許センター(Patent Center)を通じて提出される新規の実用特許出願(非継続・非再発行・非意匠・非植物)であり、出願書類はDOCX形式での提出が求められる。また、参加者はe-Office Actionプログラムへの登録も必要となる。 自動検索に使用されるAIツールは、特許分類(CPC)情報と出願明細書・請求項・要約などを文脈情報として活用し、米国および外国の公開特許文献データベースから類似文献を検索する仕組みである。AIモデルの学習データは公的に利用可能な特許文献データで構成されており、申請人や発明者、権利者などの個人情報は含まれていない。これにより、データバイアスの抑制と機密保持を確保している。 USPTOはこのパイロットプログラムを通じて、自動検索結果の提供が出願人の行動や審査プロセスに与える影響を評価し、今後の本格導入に向けた有用なデータを収集することを目的としている。評価の際には、GAO(米国会計検査院)の「効果的なパイロット設計のための指針」に従い、目的の明確化、データ収集、成果評価、拡張可能性の検討、関係者とのコミュニケーションを重視して実施される予定である。USPTOは、プログラムの進捗や各技術センターでの受理件数、終了予定日などを随時ウェブサイトで公表し、透明性を維持しながら進行する。 この試みは、AI技術の活用によって特許審査の品質と効率を向上させるUSPTOの継続的な取り組みの一環であり、早期に先行技術を把握することで出願人の戦略的判断を支援し、審査官による調査負担を軽減することが期待されている。 https://public-inspection.federalregister.gov/2025-19493.pdf このように、USPTOにおいても積極的にAI技術を活用し審査官の負担を軽減する潮流があります。このような実態から、代理人も同様にAI技術を取り入れ、審査段階の負担を軽減することが求められています。例えば、特許審査における拒絶対応は、これまで経験豊富な代理人の専門的知見に大きく依存してきました。審査官が引用する法理を正確に読み解き、事実構成を整理し、反論方針を立てる作業には、法的判断力と技術理解力の双方が求められます。その一方で、米国特許実務を取り巻く環境は急速に変化しており、出願件数の増加、審査基準の複雑化、そして判例法の更新スピードの加速が、代理人に大きな負担を与えています。こうした中、AIは、代理人の思考を支援する「知的補助ツール」として実務に新たな価値をもたらし始めています。 AIの最も有用な点は、拒絶理由通知(Office Action)に含まれる情報を迅速に構造化し、法的観点から整理できる点にあります。AIは大量の判例や公知情報を瞬時に参照し、審査官の指摘を法理・技術要素・根拠の三層で可視化します。このような整理は、代理人が事案の本質に集中しやすくする下準備として機能します。AIが示す分析結果はあくまで素材であり、それをどう解釈し、どの方向へ応答方針を導くかは人間の専門的判断に委ねられます。AIは「考える人の前に地図を広げる役割」を担っているに過ぎません。 ― 35 USC §101を例に見るAI活用の実務的展開 ― 例えば、米国特許法第35条第101項拒絶、すなわち特許適格性拒絶においては、このAIと人間の協働が最も実践的な形で現れます。Alice/Mayo判決以降、抽象的概念か技術的改善かの判断は事案ごとに微妙な差異を持ち、過去の判例の解釈が応答方針の鍵を握ります。AIを活用することで、CAFCやPTABの最新事例を横断的に収集し、特定の技術分野における「適格性が肯定された論点」を抽出することが可能になります。しかし、そこから「自社発明の構成をどのように位置づけ、どの論理ラインを採用するか」を決定するのは代理人の仕事です。AIはその判断を助けるための情報整理と視野拡張の手段であり、最終的な法的主張の構築はあくまで専門家が担います。 実務の流れとしては、まずAIがDeep Research機能を通じて最新の判例・ガイドラインを抽出します。代理人はその要約を踏まえ、自身の経験と審査官の論理を対比しながら反論の骨子を設計します。その後、AI技術を利用して応答書の下書きを生成し、AIの提案する表現や構成を精査しつつ、法的整合性・技術的正確性を保証します。つまり、AIが「一次案を提示する書記官」として働き、代理人がそれを「法的戦略文書」へと昇華させる関係です。このような協働は、作業効率を高めるだけでなく、論理の客観性を保ちつつ説得力ある応答を構築する助けとなります。 AIと代理人が共に拒絶対応を考える利点は、情報の広がりと判断の深さの両立にあります。AIは世界中の判例・学術的議論・USPTOガイドラインの変化を瞬時に参照できますが、それをどのように引用し、どのように「発明の本質」と結びつけるかを判断するのは代理人の経験と直感です。たとえば、AIが提示した過去の適格性肯定事例をもとに、代理人は自社発明の「具体的な技術的改善」を際立たせる修正文案を設計することができます。AIが情報の地平を広げ、代理人がその中から最も有効な戦略の線を引く――この協働こそが、今後の拒絶対応の理想的な形といえるでしょう。 さらに、生成AIは単なる分析ツールにとどまりません。米国代理人が複数の案件を同時に扱う際、AIを用いて過去の拒絶対応事例を要約し、論理構成を比較検討することが可能です。これにより、同一審査官や同系統発明への対応一貫性を保ちやすくなり、説得力の高い応答を短時間で構築できます。AIは「知識の再利用」を体系化し、代理人の判断をより戦略的にするためのインフラとして機能します。 ただし、AIの提案は常に“法的判断を伴わない助言”である点を忘れてはなりません。どの判例を引用するか、どの論理を採用するか、どのようにクレームを修正するかは、すべて人間の責任において最終決定されるべき事項です。生成AIの導入によって、代理人の存在価値が薄れるのではなく、むしろ「戦略を考える知的中心」としての役割がより明確になります。AIがルーチン作業を担い、代理人が創造的判断に集中する。その協働が、特許実務の質を新たな段階へ引き上げる鍵となります。 AIと人間の共創による拒絶対応は、効率化だけでなく、法的精度と戦略性を両立させる新しい形です。35 USC §101のように判例依存度の高い拒絶対応においては特に、AIの情報整理能力と代理人の判断力の融合が、従来の手法を超えたスピードと深度をもたらします。AIは法を学びませんが、法を考える人を助ける力を持っています。今後、生成AIは米国代理人の手により、知的財産の世界で最も信頼される“思考の補助者”として進化していくことでしょう。 ― AIの安全な活用 ― ただし、AIの効果を最大限に活かすには、安全性への十分な配慮が欠かせません。例えば、ChatGPT Business環境では、入力情報がモデル訓練に使用されず、通信および保存データも暗号化されるため、企業機密や出願情報を扱う知財実務にも適しています。一方で、外部検索を伴うDeep Research機能を利用する際は、入力内容の一部がインターネット経由で送信されるため、出願番号や請求項の詳細などの秘匿情報は含めない運用が必要です。ChatGPT Businessの安全基盤を活かしつつ、外部検索時は常に発明情報を抽象化する。この二つの原則を守れば、生成AIは35 USC §101拒絶対応をはじめとするあらゆる特許実務において、代理人や知財部門の新しいパートナーとして信頼できる存在となるでしょう。
- 連邦政府シャットダウンとUSPTOへの影響について
2025年10月1日、米国連邦政府は予算合意に至らなかったことから一部閉鎖に追い込まれ、多くの政府機関が業務停止に入りました。今回のシャットダウンは、議会とホワイトハウスの深刻な対立によるもので、過去の事例と比べても不透明さと不確実性が際立っています。このような状況下において、特許・商標制度を所管する米国特許商標庁(USPTO)がどのような影響を受けるのかは、多くの出願人や権利者にとって関心の高い問題です。 USPTOは、一般会計予算とは異なり、特許出願料や商標出願料、維持年金などユーザーからの手数料収入によって独立採算で運営されている点が特徴です。このため、他の連邦機関が即座に業務停止に入る一方で、USPTOは昨年度までに蓄積した予備資金を活用することで、当面は通常どおりの運営を継続すると表明しています。出願の受付、審査、審判業務、そして特許審判部(PTAB)における無効審理手続きも、現時点では中断される予定はなく、ユーザーに対する直接的な影響は限定的と考えられます。 しかしながら、USPTO内部でも人員削減の動きが一部で生じており、10月1日付けで全職員の約1%にあたる削減が実施されることが明らかになっています。影響は限定的であるものの、政府の長期的な縮小方針の一端として捉えることができ、今後の業務体制や審査の効率性に一定の影を落とす可能性は否定できません。また、デンバーの地域サテライトオフィスが恒久的に閉鎖されることも発表され、現地職員の多くはリモート勤務へ移行する見込みです。こうした動きは、コスト削減の一環であると同時に、地方における対面サービスや利便性に変化をもたらす可能性があります。 総じて、USPTOは当面の業務を維持できる見通しですが、シャットダウンが長期化した場合には、予備資金の消耗や組織改革の加速といった形で、審査や運営に遅延や不確実性が生じる恐れがあります。特許出願や審査請求を計画されているクライアントにおかれては、現時点での実務に即時の影響は想定されないものの、将来的な制度運営への波及に備え、必要に応じてスケジュールを前倒しするなどの柔軟な対応を検討することが望まれます。 今回の政府閉鎖は、米国の政治状況に起因するものであり、USPTOが特許・商標制度の安定性をいかに維持できるかが今後の焦点となります。私たちとしては、USPTOの運営状況や追加的な発表を引き続き注視し、クライアントに不測の影響が及ばないよう最新情報を随時共有してまいります。
- USPTOによる人員削減とデンバーオフィス閉鎖について
2025年10月1日付けで、米国特許商標庁(USPTO)が全職員の約1%にあたる人員削減を実施することが内部文書により明らかとなりました。職員数が1万4,000人を超える同庁において、今回の削減はごく限定的な規模ではあるものの、政府機関の閉鎖が続く中で「ミッションクリティカル業務」に集中するための措置とされています。特許部門の6つの職位が対象であり、加えて広報部門にも一部影響が及んだと伝えられています。ジョン・スクワイアーズ長官は別の内部文書において、今回の削減は職務遂行能力に基づくものではなく、機構改革の一環であることを強調しています。 今回の政府閉鎖は、議会とホワイトハウスの対立によって予算合意に至らなかったことが原因であり、トランプ政権下では、閉鎖が長引けば連邦政府全体で年末までに30万人規模の人員削減につながる可能性が指摘されています。USPTOはユーザーからの特許・商標関連の手数料によって独立採算で運営されているため、他の政府機関と異なり即時閉鎖には至っていません。特許・商標からの収入を基にした予備資金を活用することで、当面は通常業務を継続できると発表されています。 あわせて、USPTOは地域拠点の一つであるデンバーのサテライトオフィスを恒久的に閉鎖することを決定しました。同オフィスには30名未満の職員が在籍していましたが、大部分は今後リモート勤務に移行する見込みです。今回の閉鎖はコスト削減の一環であり、地方拠点を活用した対面サービスの縮小を意味する動きとして注目されます。 USPTOは依然として米国の知的財産制度の中核を担い、特許・商標の付与に加えて、政策提言や特許審判部(PTAB)による特許有効性の審理など多様な役割を果たしています。今回の人員削減やオフィス閉鎖は規模こそ限定的ですが、今後の政府の縮小方針が同庁にどの程度波及していくのか、また業務効率や審査体制にどのような影響を及ぼすのかについては引き続き注視が必要です。 私たち実務家にとっては、短期的にはUSPTOの通常業務は維持される見込みであるものの、中長期的には審査の遅延や政策変更の可能性も否定できません。クライアントの出願・権利化戦略に不測の影響が出ないよう、今後の制度運営や人員体制に関する最新情報を継続的にモニタリングすることが重要です。 https://www.reuters.com/world/us-patent-trademark-office-lay-off-1-its-workforce-agency-says-2025-10-01/
- 特許税案 ~イノベーション政策の転換点か?
アメリカでは近年、政府の歳入確保や財政赤字是正、さらには知的財産をめぐる国際競争での公平性を高める観点から、特許保持者に対する新たな課税制度の検討が進められています。トランプ政権下では、既存の特許維持手数料制度が大きく見直される可能性が報じられており、その焦点となっているのが、特許の価値を基にした年次課税的な手数料制度です。 現在検討されている制度は、特許の評価額に応じて1パーセントから5パーセント程度の年次課税的な手数料を課すものであり、既存の維持手数料に追加される、あるいはそれに代替する形になると見られています。対象はすべての特許保持者ですが、特に価値の高い特許を多数保有する企業に大きな影響を及ぼすと考えられています。制度の目的は、連邦政府の歳入源を拡大し、財政赤字を縮小することに加え、収益を生む知財をより適切に評価して負担を求めることで公平性を高めることにあります。また、特許を低税率国やオフショアに移転する行為を抑制する効果も期待されています。 この制度案は、トランプ政権下で商務長官に就任したハワード・ラトニック氏の下で検討されている特許維持手数料制度の抜本的な見直しの一環として報じられています。従来の定額制維持費では発明の商業的価値や収益性が十分に反映されないという批判を背景に、特許の評価額に応じた課税的手数料制度を導入する方向性が示されました。米国の大手法律事務所や知財専門誌(IAM、Cleary Gottlieb、Fahey IP Law、THIP Lawなど)がこの動きを伝えており、政策議論が現実の制度化に向かいつつあることを示しています。 この提案が導入された場合、イノベーション活動全体に大きな影響を及ぼすことが予想されます。特にバイオテクノロジーや医薬品、量子コンピューティングや人工知能の分野など、研究開発に長い期間と巨額の投資を要する産業においては、特許維持のコストが事業リスクを押し上げる可能性があります。また、中小企業やスタートアップにとっては、商業収益をまだ生んでいない特許であっても高額の評価を受けることが負担となり得るため、資本力のある大企業と比べて不利に立たされるリスクが懸念されます。さらに、特許の「価値」をどのように評価するのかという点が制度設計の核心となるため、評価基準の透明性や公平性が確保されなければ、紛争や訴訟が増加する可能性も否めません。 加えて、米国だけがこのような制度を導入すれば、国際的な競争力の低下や特許ポートフォリオ戦略の見直しを余儀なくされる恐れがあります。多くの国では依然として維持費は定額であり、米国特許の保持コストが際立って高くなれば、海外企業が米国での特許取得を控える動きも考えられます。すでに一部のバイオテック企業などでは市場が将来のコスト増を織り込み、株価に影響を与えているとの報道もあります。 この案に対しては、二重課税であるとの批判や、イノベーションを萎縮させるとの懸念が強く指摘されています。特に研究機関や大学、スタートアップなど、収益化までの時間が長い主体にとっては、特許を維持するための新たな費用が大きな障害となり得ます。したがって、制度の設計過程で免除規定や猶予期間、あるいは研究段階の発明に対する特例措置を導入することが不可欠と考えられます。 現時点では政策の最終形はまだ固まっていませんが、2025年中に商務省やUSPTOから正式な提案が示される可能性があり、その後の公聴会やパブリックコメントを経て制度化に向けた具体的な議論が進むと見られています。クライアントにおいては、制度化の動向を注視するとともに、特許の価値を裏付けるデータや証拠の整備、特許ポートフォリオの再評価、業界団体を通じた意見発信など、早期の対応を検討することが望まれます。 この制度は、特許を単なる権利の維持コストから「価値に基づく資産」として位置づけ直すものです。制度設計の行方によっては、特許戦略そのものを大きく変える可能性があります。知財の保護と事業展開を両立させるためには、先手を打った準備が重要となるでしょう。
- 大統領令:H-1B(就労ビザ)申請費用大幅引き上げとAI導入が特許実務に与える影響
H-1Bビザは、米国で専門職として就労することを認める代表的な労働ビザであり、通常は3年間の在留許可が与えられ、その後1回更新することで最長6年間の滞在が可能となります。6年を超えて滞在し継続して米国で働くためには、永住権(グリーンカード)の申請が必要となります。このH-1Bビザはこれまで、米国で外国人の専門知識や技能を活用するための主要な制度として広く利用されてきました。 しかし現在、H-1Bビザの申請費用を年間で10万ドル(約1500万円)規模と大幅に引き上げる大統領令に署名(9月19日付)され、外国人専門職の採用環境に大きな変化がもたらされようとしています。加えて、トランプ政権はAI開発に莫大な資金を投入し、特許関連業務を含むホワイトカラー分野へのAI導入を加速させています。これら二つの政策の方向性は、米国の特許実務に直接影響を及ぼし、お客様の米国特許戦略においても無視できない要素となりつつあります。 申請費用の引き上げは、米国の特許法律事務所や企業が外国人弁護士や特許技術者を採用する際に大きな経済的負担となり、特にバイリンガル人材の確保を困難にします。日本からの出願案件においては、日本語の明細書を理解しつつ米国の特許制度に精通している人材の存在が案件進行の質を大きく左右しますが、こうした人材を現地で確保するハードルは今後一層高まることが予想されます。 AIは翻訳や先行技術調査、オフィスアクションへの初期対応といった定型業務の多くを代替できる可能性がありますが、発明者の意図を正確に把握し、文化的背景や技術的ニュアンスを米国の法的枠組みに沿って調整する能力は依然として人間の専門家に依存しています。そのため、米国現地に在籍する外国人実務者、とりわけ日本人実務者は、言語や文化の橋渡し役としてAIでは補えない価値を提供し続けています。 今後、H-1Bビザの申請費用引き上げによって外国人実務者の新規雇用は減少していくと考えられる一方、すでに米国に根を下ろして活動している日本人実務者の存在は一層重要性を増すでしょう。現地に日本人実務者がいることにより、日本の知財部や発明者が母国語で安心して相談でき、米国特許実務への迅速かつ的確な対応が可能になります。さらに、米国人弁護士と密接に連携しながら、国際的な視点を持ち込んだ戦略提案を行うことで、お客様にとって米国での知財活動を強力に支える存在となります。 AI導入とビザ政策の変化は米国の人材構造を大きく揺るがそうとしていますが、そうした中でも現地の日本人実務者はお客様にとって代替不可能なパートナーとなります。今後の米国特許戦略においては、AIの活用とともに、この貴重な現地人材をどのように活かしていくかが競争力維持の鍵となるでしょう。
- プロパテント潮流と実務への影響
米国の特許制度は、政権交代のたびにその性格を大きく変えてきました。現在のトランプ政権は、ハワード・ラトニック商務長官とジョン・A・スコイヤーズUSPTO長官の下で、かつてないほど明確に「プロ-パテント」路線を打ち出しています。これは、直近のバイデン政権やその前のオバマ政権が進めた「アンチ-パテント」的政策との鮮やかな対比を示しています。 オバマ政権期には「特許トロール」対策の名のもとに、特許権者にとって厳しい環境が整えられました。2009年以降、裁判所での差止救済は制約され、標準必須特許の行使は競争法の観点から抑制的に扱われました。また、特許適格性(§101)の運用は不透明さを増し、ソフトウェアやビジネスメソッド特許は一気に取得・維持が難しくなりました。さらに2012年に導入されたIPR(Inter Partes Review)は、当初「低コストで迅速な無効審理」として歓迎されましたが、民主党政権下では被請求人(特許権者)に不利な運用が定着し、特許が次々と無効化される結果となりました。とりわけオバマ政権後半からバイデン政権期にかけては、無効率の高さが際立ち、特許を取得しても安定的に維持できないという環境が広がっていました。 バイデン政権もこの流れを引き継ぎました。司法省反トラスト局はSEP権利行使に消極的な姿勢を維持し、FRAND条件の遵守を強調する一方で、差止救済や強い権利行使は難しい状況が続きました。さらに、IPRの乱用とも言える状況は改善されず、地裁訴訟と並行して特許権を削ぐためのツールとして活用される場面が多く見られました。こうした環境では、スタートアップや大学発ベンチャーが特許を資産として十分に活かせないことが少なくありませんでした。 これに対して、現行のトランプ政権は異なる方向へ大きく舵を切っています。USPTOは2025年8月に発表した審査官向けメモで、抽象的観念の当てはめを厳格化する一方、技術的改良が示されている場合には特許適格性を認めやすくする姿勢を示しました。これはソフトウェアやAI関連発明にとって追い風となり、特許の成立可能性を大きく改善するものです。また、PTABにおいてはFintivルールが復活し、訴訟が並行する場合に審理自体が却下されるケースが増えています。これにより、民主党政権期に氾濫したIPRによる特許無効の連鎖に一定の歯止めがかかり、特許権者の交渉力が回復しつつあります。 加えて、ラトニック商務長官は大学特許収益への政府取り分を見直す可能性に言及しており、Bayh-Dole法に基づく産学連携の枠組みにも影響を与える兆しがあります。民主党政権下では「社会還元」を重視するあまり不確実性が高まったのに対し、現政権はむしろルールを明確化し、透明性を高める方向へ進む可能性が見込まれます。 総じて言えば、オバマ・バイデン政権期は「IPRによる特許無効の多発」と「適格性審査の厳格化」が特許権者を苦しめたのに対し、現行トランプ政権は「特許の安定性を高める方向」に制度を再設計しています。もっとも、これは「プロ-パテント」一辺倒ではなく、あくまで国益と産業競争力を重視する視点に基づいた調整です。そのため私たち実務家に求められるのは、クライアントに対して制度の変化を正確に伝えるだけでなく、出願設計や権利行使戦略を新たな政策環境に適合させる具体的な提案を行うことです。 米国の特許制度は、政権交代に応じて「アンチ-パテント」と「プロ-パテント」の間を振り子のように揺れ動きます。だからこそ、最新の動きを常に把握し、制度の変化を先取りした戦略を準備することが、クライアントの競争力を守り抜く鍵となります。 実務戦略への具体的提案 トランプ政権下で強まる「プロ-パテント」の潮流を踏まえ、出願から権利行使に至るまでの各段階で、制度の変化を先取りした準備が求められます。まず、特許適格性(§101)の運用が緩和されつつある今こそ、ソフトウェアやAI関連発明について積極的に出願を進める好機です。ただし、単にアイデアを記載するのではなく、技術的効果を裏付けるデータや改良点を明確に仕様書に盛り込むことが不可欠です。例えば、アルゴリズムの精度向上率や処理速度の改善といった数値的効果を明示すれば、審査での安定性が大きく高まります。 次に、PTABの運用において裁量却下が復活したことにより、従来のように大量のIPRで権利が攻撃されるリスクは低下しつつあります。したがって、今後は「訴訟に持ち込んでも戦える強い特許」を意識した請求項設計が鍵となります。コア技術を広くカバーする独立クレームと、訴訟で防御線を築ける従属クレームをバランスよく用意することが望ましいでしょう。また、重要案件については早期審査を活用し、迅速に権利化を進めて訴訟や交渉の場で交渉材料として利用できるように備えることを推奨します。 さらに、AI補助による発明や大学発の研究成果については、今後も政策的な関心が高い分野です。AI発明については「人間発明者の有意な貢献」が必須であるため、発明の記録方法をあらかじめ統一し、AIが果たした役割と人間が行った創作的判断を明確に区分して保存しておくことが重要です。一方、大学や公的資金を起源とする案件では、政府による収益分配の強化が示唆されているため、ライセンス契約や資本政策において政府権利条項を丁寧に検討し、将来の不確実性に備える必要があります。 最後に、実務家としての大きな役割は「制度変化を投資家・経営陣への安心材料として活用する」ことにあります。プロ-パテント政策の下では、特許は再び資産価値として強調しやすい環境となります。したがって、今取得している権利や新規出願の方向性を、ビジネス戦略や資金調達に結びつけて説明できる体制を整えておくことが、クライアントにとって最大の利益となるでしょう。
- 【速報】USPTO新長官にジョン・A・スクワイアーズ氏が就任
― 米国特許実務への影響と注目点 ― 2025年9月、米国上院は John A. Squires(ジョン・A・スクワイアーズ)氏 を、商務次官兼米国特許商標庁(USPTO)長官に正式承認しました。スクワイアーズ氏は、ゴールドマン・サックスの知財責任者(Chief IP Counsel)を務めた経験を持ち、近年は法律事務所でAI・ブロックチェーン・サイバーセキュリティ分野を専門としてきた実務家です。また、学術面ではペンシルベニア大学ロースクールで教鞭をとるなど、多方面にわたる活動歴を有しています。 ■ 注目すべき政策方針 スクワイアーズ氏は承認過程において、以下の課題と方針を示しています。 特許審査の迅速化 長年課題となっているバックログ(未処理案件の遅延)解消を重視。日本企業にとっても、米国出願の審査期間短縮が期待されます。 特許品質の強化 “Born Strong” 特許(強固な権利として生まれる特許)の実現を目指し、より明確で実効性の高いクレームの付与を進める意向。将来的に権利行使の安定性に寄与する可能性があります。 特許適格性(§101)の明確化 「抽象的アイデア」との理由で却下されるケースが多いソフトウェア・ビジネス関連発明について、予見可能性を高める方針。特にAI関連発明を扱う出願人にとって注目すべき動きです。 AIツールの活用推進 USPTO審査官によるAIの利用を拡大し、審査の効率化と質の向上を図る方針。出願人としても、審査過程の透明性や判断基準の変化に注視する必要があります。 不正・濫用対策 特許トロールによる訴訟や、外国による訴訟資金提供の透明化などにも対応を強化。日米クロスボーダー訴訟に関わる企業にとって、訴訟リスクの変化が予想されます。 ■ 実務者への影響と展望 AI・ソフトウェア関連発明 §101の運用が明確化されることで、これまで審査の不確実性が高かった分野での出願戦略が立てやすくなる可能性があります。 特許権の強度 クレーム解釈の安定性向上により、米国特許のライセンス交渉や訴訟での信頼性が増すことが期待されます。 審査のスピードアップ 出願人にとって、製品のライフサイクルに見合った迅速な権利化がより現実的となる可能性があります。 国際的競争環境 中国との技術競争を背景に、米国が知財制度の整備を一層強化する方向性が示されており、日本企業にとっても米国での権利取得戦略が一層重要性を増すと考えられます。 ■ まとめ スクワイアーズ氏の就任は、USPTOの方向性に大きな転換をもたらす可能性があります。特に AI発明の特許適格性、特許権の強度、審査の迅速化 という3点は、日本企業・特許実務者にとって今後の戦略を考える上で重要な注目点です。
- 35 U.S.C. §101(特許適格性)審査に軟化傾向 ― 出願人が活かすべき最新ポイントと判例解説
背景 AIやソフトウェア関連の発明に対する特許審査では、35 U.S.C. §101(特許適格性)が依然として大きな争点です。 しかし、USPTOが2024年7月に公表した「AI-SME Update」と、それを踏まえた審査官向け内部メモは、不必要な拒絶を避け、技術的改良を適正に評価する方向性を示しました。 この方針転換は、出願人にとって「101拒絶に対して応答しやすくなる」環境が整いつつあることを意味します。 出願人に有利なポイント 今回のメモで強調されたのは、以下の点です。 第一に、いわゆる「close call」の場合には拒絶すべきでないという点です。クレームが適格か不適格か微妙な場合には、不適格と判断できる可能性が50%を超える場合にのみ拒絶が許されます。つまり、単に疑わしいという理由では拒絶できず、出願人は応答で「このケースは少なくともclose callに該当する」と主張することが可能になります。 第二に、「recite」と「involve」の区別です。クレームが抽象的アイデアを具体的に記載(recite)している場合のみ司法例外に当たり、特許適格性分析が必要になります。単にアイデアを利用(involve)しているだけなら適格と判断され、101拒絶の対象にはなりません。 第三に、「apply it」に基づく拒絶の制限です。単に抽象的アイデアをコンピュータに適用しただけでは不十分であり、技術的改善を示す場合は適格と認められるべきとされています。 第四に、クレーム全体での判断が徹底されるという点です。個別要素を切り離すのではなく、クレーム全体が生み出す技術的効果を見て適格性を判断することが求められます。 判例と公表例から学ぶ実務ポイント USPTOは、実務の参考になる具体例を公表しており、これらは出願人にとって説得力のある論拠になります。 たとえば、Example 39(ニューラルネットワークの訓練方法)では、「ニューラルネットを訓練する」というクレームが示されました。この場合、数学的アルゴリズムを具体的に記載していないため、司法例外には当たらず、単に抽象的アイデアを利用しているだけ(involve)と判断されています。出願人は応答で「本件はExample 39に類似しており、reciteしていない」と主張できます。 一方、Example 47(異常検出技術)では対照的な判断が示されています。クレーム2は「バックプロパゲーションや勾配降下法を用いた訓練」を明記しており、これは数学的概念をreciteしているため、司法例外に当たります。しかし同じ例のクレーム3では、「訓練済みモデルを用いてネットワーク侵入を検出する」と記載されており、これは単なる数式処理にとどまらず、ネットワークセキュリティという具体的技術課題に対する解決策を示しているため、適格と判断されました。 さらに、連邦巡回控訴裁判所のRecentive Analytics対Fox事件(2025年判決)では、ビジネス上の抽象的アイデアを単に自動化したにすぎないクレームが不適格とされました。これに対して出願人は、「本件は単なる自動化ではなく、システム全体の性能改善を含む」と差別化して主張できます。 実務での活用方法 実務家はこれらのガイダンスと判例を、以下のように戦略的に活用できます。 · オフィスアクションへの応答では、「本件は数学的概念をreciteしていないため司法例外に当たらない」と主張する、あるいは「単なる自動化ではなく、Example 47のクレーム3型のように技術的改善を含んでいる」と示すことが有効です。さらに「微妙な場合にはclose call基準に従えば拒絶すべきでない」と主張することも可能です。 · 出願段階では、明細書において「どの技術的課題を解決しているか」を具体的に記載し、クレームでは「望ましい結果」を抽象的に述べるのではなく、具体的な手段やアルゴリズム、システム構造を明確に含めることが重要です。 面接の場面では、「reciteとinvolveの区別」や「apply itとimprovementの違い」を具体例とともに説明し、審査官に対して拒絶を撤回させる戦略が有効です。 今後の見通し 今後は101拒絶が減少傾向に向かうと予想されます。その一方で、102(新規性)や103(進歩性)に関する議論が主戦場となるでしょう。したがって、出願人はこれまで以上に「技術的改良性」を明細書やクレームに盛り込む必要があります。 まとめ USPTOの最新ガイダンスは、出願人にとって有利に働く可能性があります。今回のメモと判例を踏まえると、次のような戦略が有効です。 · 微妙なケースはclose callとして適格扱いに誘導する。 · 「recite」と「involve」の違いを強調して司法例外回避を図る。 · 「apply it」拒絶にはRecentive Analytics事件などの判例を用いて反論する。 · Example 47のように、具体的技術的改善を前面に出す。 これらを戦略的に活用することで、AI・ソフトウェア関連発明の特許化の可能性が高まります。 USPTO MEMORANDUM Date: August 4, 2025 https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/memo-101-20250804.pdf












