top of page
検索

プロパテント潮流と実務への影響

  • IPBIZ DC
  • 2025年9月20日
  • 読了時間: 5分

米国の特許制度は、政権交代のたびにその性格を大きく変えてきました。現在のトランプ政権は、ハワード・ラトニック商務長官とジョン・A・スコイヤーズUSPTO長官の下で、かつてないほど明確に「プロ-パテント」路線を打ち出しています。これは、直近のバイデン政権やその前のオバマ政権が進めた「アンチ-パテント」的政策との鮮やかな対比を示しています。


オバマ政権期には「特許トロール」対策の名のもとに、特許権者にとって厳しい環境が整えられました。2009年以降、裁判所での差止救済は制約され、標準必須特許の行使は競争法の観点から抑制的に扱われました。また、特許適格性(§101)の運用は不透明さを増し、ソフトウェアやビジネスメソッド特許は一気に取得・維持が難しくなりました。さらに2012年に導入されたIPR(Inter Partes Review)は、当初「低コストで迅速な無効審理」として歓迎されましたが、民主党政権下では被請求人(特許権者)に不利な運用が定着し、特許が次々と無効化される結果となりました。とりわけオバマ政権後半からバイデン政権期にかけては、無効率の高さが際立ち、特許を取得しても安定的に維持できないという環境が広がっていました。


バイデン政権もこの流れを引き継ぎました。司法省反トラスト局はSEP権利行使に消極的な姿勢を維持し、FRAND条件の遵守を強調する一方で、差止救済や強い権利行使は難しい状況が続きました。さらに、IPRの乱用とも言える状況は改善されず、地裁訴訟と並行して特許権を削ぐためのツールとして活用される場面が多く見られました。こうした環境では、スタートアップや大学発ベンチャーが特許を資産として十分に活かせないことが少なくありませんでした。


これに対して、現行のトランプ政権は異なる方向へ大きく舵を切っています。USPTOは2025年8月に発表した審査官向けメモで、抽象的観念の当てはめを厳格化する一方、技術的改良が示されている場合には特許適格性を認めやすくする姿勢を示しました。これはソフトウェアやAI関連発明にとって追い風となり、特許の成立可能性を大きく改善するものです。また、PTABにおいてはFintivルールが復活し、訴訟が並行する場合に審理自体が却下されるケースが増えています。これにより、民主党政権期に氾濫したIPRによる特許無効の連鎖に一定の歯止めがかかり、特許権者の交渉力が回復しつつあります。


加えて、ラトニック商務長官は大学特許収益への政府取り分を見直す可能性に言及しており、Bayh-Dole法に基づく産学連携の枠組みにも影響を与える兆しがあります。民主党政権下では「社会還元」を重視するあまり不確実性が高まったのに対し、現政権はむしろルールを明確化し、透明性を高める方向へ進む可能性が見込まれます。


総じて言えば、オバマ・バイデン政権期は「IPRによる特許無効の多発」と「適格性審査の厳格化」が特許権者を苦しめたのに対し、現行トランプ政権は「特許の安定性を高める方向」に制度を再設計しています。もっとも、これは「プロ-パテント」一辺倒ではなく、あくまで国益と産業競争力を重視する視点に基づいた調整です。そのため私たち実務家に求められるのは、クライアントに対して制度の変化を正確に伝えるだけでなく、出願設計や権利行使戦略を新たな政策環境に適合させる具体的な提案を行うことです。


米国の特許制度は、政権交代に応じて「アンチ-パテント」と「プロ-パテント」の間を振り子のように揺れ動きます。だからこそ、最新の動きを常に把握し、制度の変化を先取りした戦略を準備することが、クライアントの競争力を守り抜く鍵となります。


実務戦略への具体的提案

トランプ政権下で強まる「プロ-パテント」の潮流を踏まえ、出願から権利行使に至るまでの各段階で、制度の変化を先取りした準備が求められます。まず、特許適格性(§101)の運用が緩和されつつある今こそ、ソフトウェアやAI関連発明について積極的に出願を進める好機です。ただし、単にアイデアを記載するのではなく、技術的効果を裏付けるデータや改良点を明確に仕様書に盛り込むことが不可欠です。例えば、アルゴリズムの精度向上率や処理速度の改善といった数値的効果を明示すれば、審査での安定性が大きく高まります。


次に、PTABの運用において裁量却下が復活したことにより、従来のように大量のIPRで権利が攻撃されるリスクは低下しつつあります。したがって、今後は「訴訟に持ち込んでも戦える強い特許」を意識した請求項設計が鍵となります。コア技術を広くカバーする独立クレームと、訴訟で防御線を築ける従属クレームをバランスよく用意することが望ましいでしょう。また、重要案件については早期審査を活用し、迅速に権利化を進めて訴訟や交渉の場で交渉材料として利用できるように備えることを推奨します。


さらに、AI補助による発明や大学発の研究成果については、今後も政策的な関心が高い分野です。AI発明については「人間発明者の有意な貢献」が必須であるため、発明の記録方法をあらかじめ統一し、AIが果たした役割と人間が行った創作的判断を明確に区分して保存しておくことが重要です。一方、大学や公的資金を起源とする案件では、政府による収益分配の強化が示唆されているため、ライセンス契約や資本政策において政府権利条項を丁寧に検討し、将来の不確実性に備える必要があります。


最後に、実務家としての大きな役割は「制度変化を投資家・経営陣への安心材料として活用する」ことにあります。プロ-パテント政策の下では、特許は再び資産価値として強調しやすい環境となります。したがって、今取得している権利や新規出願の方向性を、ビジネス戦略や資金調達に結びつけて説明できる体制を整えておくことが、クライアントにとって最大の利益となるでしょう。

 
 

Copyright © 2017 by IP Business Solutions LLC.

bottom of page