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USPTO、SEPワーキンググループ始動とSPARKパイロット創設―標準化主導権の回復へ政策を本格化

  • IPBIZ DC
  • 2 時間前
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米国特許商標庁(USPTO)は、標準必須特許(Standard-Essential Patent: SEP)を巡る政策対応を強化するために設置したSEPワーキンググループの活動を本格化させ、その第一弾施策として新たに「SPARK(Standards Participation and Representation Kudos)パイロットプログラム」を立ち上げると発表した。SEPの強力な権利保護を打ち出した前回発表に続き、今回は標準化活動への米国主体の参加を制度的に後押しする具体策が示された格好だ。


SEPワーキンググループは2025年12月29日に設置が公表され、USPTO長官John A. Squires氏の直轄組織として運営されている。同グループは、標準技術に組み込まれた特許の救済強化、標準策定プロセスへの広範な参加促進、そしてライセンス交渉の透明性向上を三本柱として掲げている。近時USPTOは、差止め救済の実効性を重視する姿勢を明確にしており、連邦地裁および米国国際貿易委員会(ITC)への意見提出を通じて、有効特許の排他的権利は公共の利益に資するものであるとの立場を打ち出してきた。SEPであっても通常特許と同様に強力かつ予測可能な救済が与えられるべきであるという政策方向が鮮明になっている。


こうした権利保護強化の方針と並行して、今回発表されたSPARKパイロットプログラムは、標準化団体(SDO)への実質的な参加を促進するためのインセンティブ制度として設計されている。通信、人工知能、製造業、サイバーセキュリティといった分野では技術標準が市場アクセスや競争環境を左右するが、中小企業、大学、非営利団体などは資源制約のために標準策定活動への継続的な関与が困難であるという構造的課題が指摘されてきた。


SPARKはこの課題に対処するため、SDO活動において技術的貢献や実質的参加を行った適格な米国主体に対し、限定数の「アクセラレーション証明書」を付与する制度である。この証明書はUSPTOにおいて特許出願審査や特許審判部(PTAB)における審理の迅速化に利用できる。標準化活動に要する時間的・財政的コストを、審査加速という具体的価値によって相殺する設計となっている点が特徴的である。


Squires長官は、標準化分野における米国のリーダーシップはイノベーション、競争力、国家安全保障の観点から不可欠であると述べ、小規模主体が持つ専門性と革新的思考を標準策定の場に十分反映させる必要性を強調した。SPARKは、SEPワーキンググループ設立後初の具体的施策であり、今後予定される他のイニシアティブとともに、米国発技術の標準組み込みを促進する制度的枠組みの一部を構成する。


今回の一連の発表は、単なる参加促進策にとどまらず、SEP政策全体の再構築を示唆している。すなわち、特許権の実効的保護を前提としつつ、標準策定段階から米国主体の関与を強化することで、標準化と特許戦略を統合的に捉えるアプローチである。差止め救済の回復と標準化参加支援という二つの政策軸は相互補完的に機能し、標準必須技術における交渉力と市場影響力の強化を志向している。


国際的には、中国が国家戦略として標準関連特許の蓄積を推進し、欧州ではSEP規制制度の整備が進むなど、標準化と知財を巡る競争は激化している。こうした環境下で、USPTOがSEP保護の強化と標準化参加支援を同時に打ち出したことは、米国の技術標準政策が攻勢に転じつつあることを示すものといえる。


SPARKの詳細な適格要件や申請手続、条件等は今後公表される予定であるが、今回の発表は明確な政策メッセージを含んでいる。すなわち、標準化の場における技術的貢献を正当に評価し、その成果を強力な特許保護と結び付けることで、米国のイノベーション・エコシステム全体を強化するという方向性である。SEPワーキンググループの今後の施策展開とあわせ、その具体化の動向が注目される。


以下、SEPワーキンググループについて、2025年12月29日に設置が公表

USPTO、標準必須特許ワーキンググループを設置―SEPの強力な権利行使を明確化


米国特許商標庁(USPTO)は、標準必須特許(Standard-Essential Patent: SEP)に関する政策対応を強化するため、新たに「SEPワーキンググループ」を設置したと発表した。本グループはUSPTO長官John A. Squires氏の直轄組織として設置され、標準技術に組み込まれた特許の権利行使を巡る政策課題に対し、制度的かつ継続的に取り組む体制を構築する。共同議長にはUSPTO副法務顧問(知的財産法担当)Nicholas Matich氏および上級法律顧問Austin Mayron氏が就任する。


今回の発表は、近時USPTOが示してきた「強力かつ予測可能な特許救済の回復」という政策方針を、SEP分野において制度化するものと位置づけられる。通信、自動車、AIなどの分野において技術標準は市場形成の基盤となっており、多くの標準には特許技術が組み込まれている。これらのSEPは、技術の相互運用性を実現する一方で、ライセンス交渉や差止めの可否を巡り長年にわたり議論の対象となってきた。


USPTOは今回の発表において、SEPを取り巻く環境が特許権者にとって「ますます厳しいものになっている」との認識を示した。具体的には、特許価値の過小評価、ライセンス料の抑制、差止め救済の制限といった傾向が、技術標準に貢献する発明者のインセンティブを損なっているとの問題意識を明確にしている。特に、差止めの利用が過度に制限されることは、特許制度の根幹にあるイノベーション促進機能を弱体化させるとの立場を強調している点が注目される。


実際、USPTOは近時、司法および行政手続に積極的に関与している。2025年6月のRadian Memory Systems LLC対Samsung Electronics事件では、仮差止めが不当に制限されることは特許法の趣旨に反するとする意見書を提出し、特許侵害においては損害額算定の困難性自体が回復不能損害を構成し得ると明言した。また、同年11月には米国国際貿易委員会(ITC)におけるDRAM関連事件で初めて公的意見を提出し、有効な特許権を排除命令によって保護することは公共の利益に合致するとの立場を示した。これらの動きは、SEPを含む特許権に対する救済の実効性を回復させる方向性を明確にするものである。


新設されるSEPワーキンググループは、三つの主要目標を掲げている。第一に、有効な特許権に対する強力で予測可能な救済の回復である。SEPであっても一般特許と同様に適切な差止めおよび排他的権利の行使が認められるべきとの考え方が基礎にある。第二に、標準化団体(SDO)への参加を促進し、特に中小企業やスタートアップが標準策定プロセスに参画しやすい環境を整備することが掲げられている。第三に、特許権者、実装企業、標準化団体などのステークホルダーとの対話を強化し、SEPライセンス交渉および標準策定における透明性と予測可能性を高めることである。


今回の発表は、過去十数年にわたり続いてきたSEP差止め抑制的な政策傾向からの転換を示唆するものとも評価できる。特に、特許権と反トラスト法は対立関係にあるのではなく補完的関係にあるとの認識を強調している点は重要である。標準化を通じて市場を創出し、技術革新を社会実装につなげるためには、特許権の実効的保護が不可欠であるという政策思想が前面に打ち出されている。


国際的にもSEPを巡る政策環境は変化しており、中国は国家戦略として標準関連特許の取得を推進し、欧州ではSEP規制制度の導入が議論されている。こうした中、米国が特許保護の強化を通じて技術標準分野での競争力回復を図る姿勢を明確にしたことは、グローバルな知財戦略にも影響を与える可能性がある。


SEPワーキンググループの具体的な政策提言やガイダンスの内容は今後明らかになるが、少なくとも現時点で示されたメッセージは明確である。すなわち、有効な特許権には強力な救済が与えられるべきであり、標準技術への貢献は正当に評価されなければならないということである。SEPを巡る法政策の重心が、改めて特許権保護の強化へと傾きつつあることを示す動きとして、今後の展開が注目される。


 
 

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