生成AIを利用した特許関連書面の誤引用についてUSPTOの判断
米国特許商標庁(USPTO)のOffice of Enrollment and Discipline(OED)は、2026年7月27日付のFinal Order(Proceeding No. D2026-16)において、生成AIを利用して作成した特許関連の裁判所提出書面に不正確な引用が含まれていたことなどを理由として、USPTO登録実務家に対する判断をくだしました。USPTOのOEDデータベースにも、本件は同日付のdisciplinary Final Orderとして掲載されています。
本件は、米国連邦地方裁判所における特許侵害訴訟で、特許権者側が提出するJoint Claim Construction Chart(JCCC)の作成に生成AIを利用したことに端を発します。登録実務家は、対象特許のクレーム用語についてのclaim construction案を作成するために一つの生成AIツールを使用し、さらに別のAIツールを使用してその内容をレビューしていました。
しかし、AIによって作成された部分には、対象特許のspecification、figuresおよびprosecution historyなどのintrinsic evidenceへの誤った引用が含まれていました。その後の確認により、claim constructionを裏付けるために記載された引用、quotationおよびparentheticalの多くが、実際には存在しない箇所を示していたり、内容が不正確に帰属されていたりすることが判明しました。
誤りが判明した後、登録実務家はJCCCを改めて確認し、さらに誤った引用が存在することを認め、不正確な引用を削除して正しいintrinsic recordへの引用に置き換えた修正版を翌日に提出しました。また、提案したclaim construction自体については対象特許のspecification、figuresおよびprosecution historyに根拠があったものの、AIが生成した引用について原資料との十分な照合が行われていなかったことを認めています。裁判所は、この不正確なAI生成引用について登録実務家またはその依頼人にsanctionsを課しておらず、依頼人にもprejudiceは生じなかったとされています。
これに対してOEDは、37 C.F.R. § 11.101(competence)、§ 11.103(diligence)、§ 11.804(c)(misrepresentation)および§ 11.804(d)(conduct prejudicial to the administration of justice)に違反する行為があったと認定しました。具体的には、AIを利用したlegal researchおよびdrafting toolsに伴う誤りやhallucinationなどのリスクを十分に理解していなかったこと、裁判所に提出した書面におけるintrinsic recordへの引用を十分に確認しなかったこと、さらに書面を提出する前に、その内容について状況に応じた合理的な調査(reasonable inquiry)を十分に行わなかったことなどが問題とされています。
一方、OEDは、誤りの発覚後に速やかに内容を確認して修正したこと、本人が責任を認めたこと、過去に懲戒歴がなかったこと、OEDの調査に全面的に協力したことなども考慮しました。
本件で特に注目されるのは、生成AIによる誤引用の対象が判例や法令などの外部資料ではなく、対象特許自身の明細書、図面および審査経過というintrinsic recordであったことです。Final OrderにおいてUSPTOは、AIによるcitation errorのリスクはstatutes、regulations、case lawなどのextrinsic sourcesに限定されず、特許・商標出願のintrinsic evidenceやfile wrapperにも及ぶと注意を促しています。 この点は米国の知財関係者からも注目されており、本件はAIによる誤引用が特許のintrinsic recordにまで及んだOEDの懲戒事例として紹介されています。
本件は、特許実務における生成AIの使用自体を禁止するものではありません。しかし、AIをlegal research、draftingまたはreviewに利用した場合であっても、提出書面の正確性を確認する責任は登録実務家自身にあります。特に、AIが明細書のparagraph、figure、prosecution history、引用文献の記載箇所などを根拠として提示した場合には、実際の原資料を確認し、その引用箇所が存在するかだけでなく、その内容が当該主張を正確に裏付けているかについても確認する必要があります。
また、本件では、一つの生成AIをdraftingに使用した後、別のAIをreviewに使用していました。それにもかかわらず、原資料との十分な照合が行われていなかったことが職業倫理上の問題とされました。このことから、AIによるreviewを人による原資料の確認に代替させるのではなく、最終的には実務家自身がsource documentに基づいて検証することが重要であると考えられます。
Proceeding No. D2026-16は、生成AIを特許実務に利用する際の利便性と、USPTO登録実務家が負うprofessional responsibilityとの関係を具体的に示した事例として、今後の米国特許実務において留意すべきものといえます。




