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先例的判断 Ex Parte Desjardins に基づく35 U.S.C. §101 適格性ガイダンスを強化 ーMPEP 改訂の事前告知を発表

  • IPBIZ DC
  • 3 分前
  • 読了時間: 5分

米国特許商標庁(USPTO)は、先日、審査基準書である Manual of Patent Examining Procedure(MPEP)の改訂に関する事前告知を発表し、特許適格性(subject matter eligibility)に関する最新の指針を明確化した。今回の更新は、先例的判断となった Ex Parte Desjardins の審決を反映したものであり、特にコンピュータ機能の向上や技術分野への具体的な改善をどのように捉えるべきかを、連邦巡回控訴裁判所の Enfish, LLC v. Microsoft Corp. の判旨を踏まえて整理している。


新たな指針では、技術的改良、コンピュータの動作向上、データ構造、学習モデル、その他応用技術に関する発明を審査する際、審査官はクレーム全体を総合的に評価し、明細書に記載された技術的進歩を適切に考慮することが求められると強調している。特許適格性の判断では依然として Alice/Mayo テストが適用されるが、その分析において、クレームが司法例外を実質的な応用へ統合しているかどうかを、技術的改善の内容と結びつけて評価する点が重要視される。


今回のMPEP改訂は、特許適格性と特許性(新規性・進歩性・記載要件)を明確に区別する意図を持ち、35 U.S.C. §§ 102、103、112 が引き続き発明の実体的特許性を判断する主要な規定であることも再確認している。また、改訂内容は昨日公表された「任意のSubject Matter Eligibility Declaration(SMED)」に関するガイダンスとも補完関係にあり、SMED が提出されたか否かにかかわらず、審査官が適格性分析を行う際の枠組みそのものを明確化するものとなっている。


改訂の範囲には、MPEP §2106 および関連セクションの更新、Step 2A Prong Two における技術的改善の評価についての詳細な説明、Ex Parte Desjardins を基にした応用技術・コンピュータ機能・構造化データ処理・学習システムに関する新しい事例の追加が含まれている。また、発明がどのように技術を改善しているかを判断する際の審査官の責任も明確化されている。


本ガイダンスは即日適用され、今後正式にMPEPへ組み込まれる予定である。USPTO は審査官向けの追加研修資料も準備しており、公衆にも公開される見込みである。


具体的な内容としては、Ex Parte Desjardins において審判部は、機械学習モデルの継続的学習に伴う「catastrophic forgetting(破滅的忘却)」と呼ばれる技術的課題に対し、出願人が示した具体的な解決策を技術的改善として評価した。審判部は、モデルが新たなタスクを学習しつつ、既存タスクに関する知識を保持する仕組みを明細書が詳細に開示している点を重視し、この点が単なる数学的概念にとどまらず、モデルの動作そのものを改善する技術的特徴であると認定した。特に「第二のタスクに対する性能を最適化しつつ、第一のタスクの性能を保護するためにパラメータを調整する」という工程が、明細書に開示された改善と一致する技術的要件としてクレーム全体に反映されていると判断した点は、本決定の核心である。


この判断は、連邦巡回控訴裁判所が Enfish, LLC v. Microsoft Corp. および McRO, Inc. v. Bandai Namco Games America Inc. で示した原則、すなわち「ソフトウェアによる論理構造やプロセスがコンピュータ機能を実質的に改善し得る」という考え方に基づいている。USPTOは今回の改訂において、明細書が開示する技術的改善の内容が、クレームの実際の構成に反映されているかどうかを審査官が厳格に評価する必要があると明確に示しており、単なる抽象的表現や結論的記載だけでは改善として認められないことも強調している。


さらに改訂では、MPEP §2106 系列の複数のセクションにわたり、技術的改善に関する判断基準が整理された。特に Step 2A Prong Two における「実質的応用への統合」の判断において、明細書が示す技術的進歩とクレームがどの程度整合しているかを検討することが重要である点が明確化されている。例えば Ex Parte Desjardins では、モデルの学習方法自体が改善されている点、性能維持のためにパラメータを調整する仕組みがクレームに具現化されている点など、技術的特徴を総合的に評価する手法が示された。審査官は、クレームを過度に一般化して評価しないよう注意を払い、個々のステップが組み合わされた全体としての技術的効果を見落とさないよう求められている。


また、MPEP §2106.05(a) では、発明が特定の問題に対して特定の技術的解決策を提示しているかどうかが重要な観点であることが改めて強調された。これは DDR Holdings や BASCOM の判例に通じる考え方であり、単に抽象的概念を適用するだけでなく、技術的構成や特定の処理手法によって問題が解決されている場合、追加要素は「apply it」型の単なる適用指示には該当しないと判断され得る。Ex Parte Desjardins もこの枠組みに位置付けられ、破滅的忘却という技術的課題に対して具体的なモデル訓練手法を示した点が、技術的改善として認定された。


改訂に伴い、機械学習分野についての具体例も追加されており、連続学習システムにおける知識保持の改善や、パラメータ調整に基づく性能向上など、AI技術に特有の改善が特許適格性の判断においてどのように評価され得るかが示されている。これにより、AI・機械学習関連技術の審査における予見可能性が向上し、発明者や出願人にとってもより明確な指針が提供されることとなった。


本改訂は本メモランダムの発出と同時に効力を持ち、MPEPの正式な改訂版にも順次反映される予定である。USPTOは、審査官および一般向けに追加の研修資料を公開する方針であり、特許適格性評価の透明性向上と一貫性の確保を目的として取り組みを進めている。


 
 

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