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審理開始権を長官へ再集中 ― 公正性と透明性の回復へ

  • IPBIZ DC
  • 10月19日
  • 読了時間: 3分

米国特許商標庁(USPTO)は、特許無効審判制度(IPR: Inter Partes Review)および特許付与後審査制度(PGR: Post-Grant Review)の運用方針を大きく転換する決定を発表しました。(https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/open-letter-and-memo_20251017.pdf?utm_campaign=subscriptioncenter&utm_content=&utm_medium=email&utm_name=&utm_source=govdelivery&utm_term=)


2025年10月17日付で公表されたジョン・A・スコワイアーズ長官による公開書簡によると、審理開始の最終判断権限を特許審判部(PTAB)から長官自身に戻す方針が明確に示されています。これは、2011年に制定されたアメリカ発明法(AIA)の原則に立ち返り、特許制度の公正性と信頼性を再構築するための重要な改革と位置付けられています。


AIAの条文である35 U.S.C. §§ 314および324は、審理を開始できるのは「長官が請求人の主張に合理的な勝訴可能性があると判断した場合に限る」と明確に規定しています。しかし、実際の運用では長官の権限がPTABに委任され、PTABが審理開始を決定し、そのまま同じメンバーが審理を行うという仕組みが続いてきました。これに対し、スコワイアーズ長官は、制度上の公平性と独立性に対する懸念を指摘し、委任による構造的な問題を是正する必要があると判断しました。


長官は書簡の中で、過去の運用が「自己利益のように見える構造」を生み出していたことを認めています。PTABの業績評価や仕事量が審理件数に影響するため、結果的に「自らの案件を自ら増やす」ように見えるという印象が生じていたと述べました。また、審理開始率が一時期95%を超えていたことや、IPRに偏重した運用傾向にも懸念を示しています。これらの要素が、制度全体の公正性と透明性に対する信頼を損なう結果につながっていたと分析しています。


今回の決定により、今後の審理開始判断はUSPTO長官が直接行い、PTABは審理・判断に専念する体制へと移行します。この変更は、審理部門と判断部門の分離を明確にし、審理の独立性を確保することを目的としています。スコワイアーズ長官は、審理開始権の回復が「法の文言と国会の意図に忠実であり、制度の信頼性を強化するものだ」と強調しています。


今回の改革は、単なる内部的な権限移譲ではなく、米国特許制度全体の信頼回復を目指す動きといえます。審理開始の判断がより慎重かつ透明に行われることで、出願人・権利者・異議申立人のいずれにとっても、より予測可能で公正な制度運用が期待されます。一方で、長官が個別の審理開始を統括することにより、審理の「入口」で政策的または経営的な視点が反映される可能性も指摘されています。そのため、日本企業にとっては、米国での特許防衛や無効審判対応において、審理開始段階の戦略を再検討する必要があるかもしれません。


スコワイアーズ長官は書簡の締めくくりで、「公正で予測可能な特許制度こそが米国のイノベーションを支える礎である」と述べ、USPTOが引き続き世界をリードする知的財産保護機関であるためには、透明で信頼される運営が不可欠だと強調しました。今後、USPTOからは本件に関する新たな運用メモやガイドラインが公表される予定であり、実務への影響を注視することが求められます。


<コメント>

この改革は、単なる組織内の権限移譲にとどまらず、「公正さ」と「信頼性」を軸にした米国特許制度の再構築とも言えます。日本企業にとっても、審理プロセスの変化が無効審判の戦略設計に影響を及ぼす可能性があり、早期の情報収集と方針調整が求められます。


 
 

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