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翻訳の誤りが特許無効につながる可能性

IPBIZ DC

更新日:2024年10月24日

翻訳のわずかな誤りが特許無効化につながる可能性を示した重要な判例として、IBSA Institut Biochimique, S.A. v. Teva Pharm. USA, Inc.の事例があります。


この事例では、優先権主張しているイタリア語の特許出願を英語に翻訳したもので、「semiliquido」を「half-liquid(半液体)」と訳して提出しました。特許における「内的証拠」と科学辞書等の「外的証拠」の両方が、元のイタリア語の「semiliquido」を翻訳した「half-liquid」の明確な意味を提供しなかったため、連邦巡回控訴裁判所は、米国特許の請求項が35 U.S.C. § 112に基づき不明確で無効であると判断しました。したがって、英語以外の優先権書類の不正確な翻訳により特許は無効となりました。


IBSA Institut Biochimique, S.A. v. Teva Pharm. USA, Inc.の事例は、翻訳のわずかな誤りが特許無効化につながる可能性を示した重要なケースです。正確な翻訳を行うためには、特に技術的な文書において、以下のような方法でバイリンガル翻訳者の精度を確認することが効果的です。


  1. ダブルチェックプロセスの実施: 翻訳文は必ず二重チェック(翻訳者と別のネイティブスピーカーまたは専門家によるレビュー)を行い、誤訳や解釈の間違いがないかを確認します。これにより、誤解や異なる解釈のリスクを最小限に抑えることができます​。


  2. 技術用語の整合性: 専門用語や技術用語は特に重要です。翻訳者がその分野の技術に精通しているかを確認し、翻訳後に用語集や辞書を用いて用語の一貫性を保つかどうかを評価します。


  3. 言語のネイティブ性と文化的知識: 翻訳者が両言語の文化的背景や微妙なニュアンスを理解しているかも重要です。日本語と英語で異なる表現や概念がある場合、単に単語を置き換えるのではなく、正確な意図を伝えられるかどうかを評価します。


  4. 機械翻訳ツールとの比較テスト: 人間の翻訳と機械翻訳の結果を比較することで、人間翻訳の精度と解釈の深さを評価できます。これにより、文脈に応じた適切な翻訳ができているかを確認できます。


  5. 実際の使用例のテスト: 翻訳文を実際の文脈で使用し、専門家や当事者が理解できるかを確認することで、翻訳の正確性と実用性を検証します​。


ただ、時には最良の翻訳者であってもミスをすることがあります。この場合は、Incorporation by referenceを使用して翻訳ミスを修正することです。出願人は、例えば「この出願は日本特許出願番号______に優先権を主張しており、これをここに引用して組み入れる」という記載を含めることによって、外国優先権出願を明示的に引用の組み入れを行うことができます(MPEP § 608.01(p)(I); 37 C.F.R. § 1.57(c))。MPEPによると、明示的な引用の組み入れは「優先権を主張している以前の出願の一部が省略された場合に備えるための安全策」として使用できます(MPEP § 608.01(p)(I)(B))。そのため、翻訳ミスが後で特定された場合、優先権出願の明示的な引用の組み入れを頼りに、翻訳ミスを修正できます。


米国特許商標庁(USPTO)に提出するための特許明細書を作成する際、クレームの範囲を制限したり、曖昧さを生じさせたりしないように、特定の言葉やフレーズを避ける、もしくは注意して使用する必要があります。以下に、避けるべき言葉やフレーズのリスト、代替案、そしてそれらが避けるべき理由を、判例法および特許出願や訴訟におけるベストプラクティスに基づいて示します。


1. "The Present invention"

  • Avoid: "The present invention"

  • Use Instead: "The disclosure," "One embodiment," "In some embodiments"

  • 理由: 「The present invention」という表現を使用すると、明細書に記載された特定の実施形態に発明全体が限定されると解釈される可能性があります。裁判所は、このフレーズを、記載された実施形態が発明の唯一の形態であると認めたものとみなすことがあり、クレームの範囲が狭くなる恐れがあります。

  • 判例: Phillips v. AWH Corp. (Fed. Cir. 2005)では、クレームの用語を解釈する際に明細書の重要性が強調されました。「本発明」といった表現は、他の潜在的な実施形態を放棄したものと見なされることがあります。


2. "Must" / "Shall" / "Required"

  • Avoid: "Must," "Shall," "Is required"

  • Use Instead: "Can," "May," "Preferably," "In some embodiments"

  • 理由: これらの言葉は、発明の必須の特徴を示唆し、クレームの範囲を制限する可能性があります。裁判所は、このような表現を、特定の特徴が必須であると解釈することがあり、本来は制限する意図がない場合でも、その特徴が不可欠であると判断される可能性があります。

  • 判例: Ethicon Endo-Surgery, Inc. v. U.S. Surgical Corp. (Fed. Cir. 1998)では、必須の表現を使用すると、クレームの解釈が狭まると裁判所が認定しました。


3. "Essential"

  • Avoid: "Essential," "Necessary," "Critical"

  • Use Instead: "Preferable," "In some embodiments," "Advantageous"

  • 理由: 「must」や「shall」と同様に、これらの用語は、発明が機能するために特定の特徴が必要であることを示唆します。これにより、意図しないクレームの制限が生じる可能性があります。

  • 判例: Halliburton Energy Services, Inc. v. M-I LLC (Fed. Cir. 2008)では、発明に不必要な制限を加える言葉を避けることが重要であると強調されました。


4. "Invention Is"

  • Avoid: "The invention is"

  • Use Instead: "In one embodiment," "In some aspects," "The disclosure relates to"

  • 理由: 「The invention is」を特定の特徴として定義すると、クレームの範囲がその特定の特徴に限定され、狭い解釈がされる可能性があります。

  • 判例: Markman v. Westview Instruments, Inc. (1996)では、明細書内の断定的な記述が訴訟においてクレームの範囲を制限することが指摘されました。


5. "Preferably" (in excess)

  • Avoid: Overuse of "Preferably"

  • Use Instead: "In one embodiment," "Advantageously," "Optionally"

  • 理由: 「好ましくは(preferably)」という表現は一般的に許容されますが、過度に使用すると、様々な実施形態の区別が曖昧になり、特定の特徴が必須であるかどうかについて読者が混乱する可能性があります。

  • 判例: 直接の判例はありませんが、Merck & Co. v. Teva Pharms. USA, Inc. (Fed. Cir. 2005)では、曖昧または過剰な修飾語の使用がクレーム解釈を複雑にする可能性があると指摘されました。


6. "Broadest" or "Best"

  • Avoid: "Broadest," "Best," "Primary"

  • Use Instead: "In some embodiments," "A preferred embodiment," "In one example"

  • 理由: これらの用語は、他の実施形態が発明に含まれない、または発明が「最良のもの」として記載されたものに限定されることを示唆する可能性があります。このため、クレームが狭く解釈されるリスクがあります。

  • 判例: Norian Corp. v. Stryker Corp. (Fed. Cir. 2004)では、「Best」や「Primary」言葉が、発明を好ましい実施形態に限定する可能性がある点が問題となりました。


7. "Can only" or "Cannot"

  • Avoid: "Can only," "Cannot"

  • Use Instead: "May," "Optionally," "In some cases"

  • 理由: 絶対的な表現は、クレームの範囲を一つの解釈に限定し、他の潜在的な実施形態を除外する可能性があります。

  • 判例: Liebel-Flarsheim Co. v. Medrad, Inc. (Fed. Cir. 2007)では、制限的な記述が、クレームが他の構成を網羅することを妨げる可能性があることが強調されました。


8. "Always"

  • Avoid: "Always"

  • Use Instead: "In certain embodiments," "Often," "Typically"

  • 理由: 他の絶対的な表現と同様に、「常に(always)」は、特定の特徴がすべての実施形態に存在する状況に発明を限定し、バリエーションを除外する可能性があります。

  • 判例: Curtiss-Wright Flow Control Corp. v. Velan, Inc. (Fed. Cir. 2011)では、条件を過度に特定すると、クレームの広さが制限されることが指摘されました。


9. "The sole purpose of"

  • Avoid: "The sole purpose of"

  • Use Instead: "One purpose of," "An advantage of," "In some cases"

  • 理由: このフレーズは、発明が単一の目的に限定されていることを示唆し、クレームの範囲がその特定の目的に限定され、他の目的が除外される可能性があります。

  • 判例: Tex. Digital Sys. v. Telegenix, Inc. (Fed. Cir. 2002)では、明細書内の限定的な表現がクレームの解釈を制約する可能性があることが示されました。


10. "All embodiments"

  • Avoid: "All embodiments," "Each embodiment"

  • Use Instead: "In some embodiments," "In various embodiments," "At least one embodiment"

  • 理由: この表現は、発明のすべての実施形態が特定の特徴を含む必要があることを示唆し、クレームの範囲を狭める可能性があります。

  • 判例: Daiichi Sankyo Co. v. Apotex, Inc. (Fed. Cir. 2007)では、明細書に基づいてクレームを一般化すると、訴訟において解釈が制約されることが示されました。


11. "Exclusively"

  • Avoid: "Exclusively"

  • Use Instead: "Primarily," "In some embodiments," "Typically"

  • 理由: 「排他的に(exclusively)」という用語は、特定の特徴がすべての実施形態に必須であることを示唆し、クレームの解釈における柔軟性を制限します。

  • 判例: Arlington Indus., Inc. v. Bridgeport Fittings, Inc. (Fed. Cir. 2010)では、排他的な用語の使用がクレームの範囲を制約し、訴訟で不利な結果を招く可能性があることが示されました。


12. "Only"

  • Avoid: "Only"

  • Use Instead: "Optionally," "In some instances," "Preferably"

  • 理由: 「only(のみ)」という表現は、特定の特徴や特性が絶対に必要であることを示唆し、発明をその状況に限定する可能性があります。

  • 判例: Liebel-Flarsheim Co. v. Medrad, Inc. (Fed. Cir. 2007)では、「only」といった限定的な表現の使用が、クレームの範囲を不必要に狭めることが示されました。


13. "Always necessary"

  • Avoid: "Always necessary," "Always required"

  • Use Instead: "In certain cases," "Often," "Generally required"

  • 理由: 「always(常に)」という表現は絶対的な必要性を示唆し、その特徴が必要でない実施形態を除外する可能性があります。

  • 判例: Aspex Eyewear, Inc. v. Marchon Eyewear, Inc. (Fed. Cir. 2010)では、限定的な言葉がクレームの狭い解釈につながったため、「always」の過剰使用が推奨されないとされました。


14. "Exemplary" (when overused)

  • Avoid: Overuse of "Exemplary"

  • Use Instead: "In some embodiments," "In an example"

  • 理由: 「exemplary(例示的)」という表現は、実施形態が単なる一例であることを明確にできますが、過度に使用すると、どの特徴が発明の中心であり、どれが単なる任意のものであるかについて混乱を招く可能性があります。

  • 判例: これに直接関係する具体的な判例はありませんが、裁判所は「例」が唯一の実施形態であることを示唆する言葉を考慮することに慎重な傾向があります。


15. "All possible embodiments"

  • Avoid: "All possible embodiments"

  • Use Instead: "Various embodiments," "In certain embodiments"

  • 理由: この表現は、すべての実施形態が記載されたすべての特徴を含まなければならないことを示唆し、意図しない制限や有効な解釈の排除につながる可能性があります。

  • 判例: Lucent Techs., Inc. v. Gateway, Inc. (Fed. Cir. 2007)では、明細書内で包括的な言葉を使用したため、クレームが狭く解釈されたことが批判されました。


16. "Single"

  • Avoid: "Single," "A single unit"

  • Use Instead: "One," "At least one," "In some embodiments"

  • 理由: 「single(単一の)」という表現を使用すると、クレームが一つの構成要素しか許されない状況に意図せず限定され、複数のユニットや構成要素を含む設計が除外される可能性があります。

  • 判例: In re Omeprazole Patent Litig. (Fed. Cir. 2007)では、限定的な用語の使用がクレームの解釈を制約し、権利行使に影響を与えることが示されました。


17. "The sole feature"

  • Avoid: "The sole feature"

  • Use Instead: "One feature," "A key feature," "A possible feature"

  • 理由: 「唯一の特徴(the sole feature)」という表現は、発明をその特徴のみに限定し、他の実施形態やバリエーションを除外するものと解釈される可能性があります。

  • 判例: SRI Int'l v. Matsushita Elec. Corp. (Fed. Cir. 1985)では、限定的なフレーズの使用がクレームの構成に影響を与えた要因となりました。


18. "Necessary to"

  • Avoid: "Necessary to"

  • Use Instead: "Can," "May be used to," "Optional for"

  • 理由: このフレーズは、特定の特徴が必須であることを示し、クレームの範囲をその特徴を含む実施形態に限定する可能性があります。

  • 判例: Edwards Lifesciences LLC v. Cook Inc. (Fed. Cir. 2010)では、特定の特徴の必要性を過度に明記することの危険性が指摘されました。


19. "Consists of" (vs. "Comprising")

  • Avoid: "Consists of"

  • Use Instead: "Comprising," "Including," "Consisting essentially of"

  • 理由: 「consists of(~から成る)」は閉じた表現であり、クレームを列挙された要素のみに限定し、追加の特徴を除外します。一方、「comprising(~を含む)」は開かれた表現であり、クレームに明記された要素に加えて、他の特徴を含めることができます。

  • 判例: Genentech, Inc. v. Chiron Corp. (Fed. Cir. 2003)では、「comprising」と「consisting of」を区別し、後者がクレームの範囲を制限することが示されました。


20. "The main purpose"

  • Avoid: "The main purpose," "The primary objective"

  • Use Instead: "One purpose," "An objective," "A potential use"

  • 理由: 「発明の主な目的(the main purpose)」を定義すると、他の用途や実施形態がカバーされていないと示唆され、クレームの範囲が制限される可能性があります。

  • 判例: Norian Corp. v. Stryker Corp. (Fed. Cir. 2004)では、このような限定的な言葉の使用が問題となり、クレームの解釈に影響を与えました。


21. "Unique"

  • Avoid: "Unique," "Exclusive to"

  • Use Instead: "In one embodiment," "A distinctive feature," "In certain cases"

  • 理由: 「unique(独特の)」という表現は、他のシステムやデバイスがこの特徴を持つことができないことを示唆し、保護範囲を制限したり、新規性に対する異議申し立てのリスクを高める可能性があります。

  • 判例: Daiichi Sankyo Co. v. Apotex, Inc. (Fed. Cir. 2007)では、過度に具体的な言葉がクレームの範囲を意図せず制限することが問題となりました。


22. "Cannot be"

  • Avoid: "Cannot be," "Impossible to"

  • Use Instead: "In some embodiments," "May not be"

  • 理由: 「cannot(できない)」のような絶対的な表現は、特定の実施形態やバリエーションが除外されることを示唆し、クレームの範囲を意図せず制限する可能性があります。

  • 判例: K-2 Corp. v. Salomon S.A. (Fed. Cir. 1999)では、断定的な表現がクレームの範囲を制限し、権利行使に影響を与えたことが議論されました。


23. "Each"

  • Avoid: "Each"

  • Use Instead: "Some," "In certain embodiments," "In various configurations"

  • 理由: 「each(各)」という表現は、すべてのインスタンスが記載された特徴に従わなければならないことを示唆し、クレームの範囲を意図せず狭める可能性があります。

  • 判例: SanDisk Corp. v. Memorex Prods., Inc. (Fed. Cir. 2008)では、システムの特徴を説明する際に「each」を使用すると、クレームが不必要に制限されることが示されました。


24. "All"

  • Avoid: "All," "Every"

  • Use Instead: "Certain," "Some," "In some embodiments"

  • 理由: 「each」と同様に、「all(すべて)」は、発明のすべてのバージョンが記載された特徴を持つ必要があることを示唆し、代替設計を除外する可能性があります。

  • 判例: Lucent Techs., Inc. v. Gateway, Inc. (Fed. Cir. 2007)では、「all」といった普遍的な表現がクレームの解釈を過度に狭くする結果を招くことが示されました。


25. "Critical to the invention"

  • Avoid: "Critical to the invention"

  • Use Instead: "In some embodiments," "Preferably," "An important feature"

  • 理由: ある特徴を「critical(重要)」と宣言すると、その特徴を含む実施形態にのみ発明の範囲が限定される可能性があります。

  • 判例: Halliburton Energy Services, Inc. v. M-I LLC (Fed. Cir. 2008)では、特徴を「重要」と表現することがクレーム解釈を制限する可能性があると警告されました。




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