代理人として長年働いていると多かれ少なかれ審査官の質や態度に問題があることに気づきます。出願人は、運悪くこのような審査官にあたってしまった場合、審査官の変更を要求することが可能であるかの疑問があります。その答えからいうと、審査官の交代を求める手続きは非常に困難であり、具体的に適切な証拠を揃える必要があります。ここでは、プロセスや戦略を要約し、さらに詳しく掘り下げてみましょう。
審査官の交代申請の仕組みとその課題:
申請プロセス(37 CFR 1.181):
審査官の交代を求める申請では、審査官や上司による不適切な行動、偏見、または手続き上の不備を証明する必要があります。
有効な理由の例:不適切なボイスメールの送信など、明らかな偏見を示す証拠や、複数回のアピールブリーフに対して継続的に審査を再開するなどの手続き上の不正行為。
無効な理由:審査官が厳しいことを示す統計、先行技術の解釈に関する意見の相違、または技術の理解不足。特許庁はこれらを「単なる意見の相違」として却下し、こうした問題は申請ではなくアピールが適切であるとしています。
決定権者:
初回の申請は、通常、グループディレクターまたはその代理人が決定します。
却下された場合、特許審査方針副コミッショナー室(MPEP § 1002.02(b))が扱う二次申請(監督レビューのための申請)を行うことができます。
偏見の証明の難しさ:
統計は十分ではない:審査官の統計は戦略を立てる上で有益ですが、特定のケースにおける偏見の証拠とは見なされません。
狭い範囲の証拠:特許庁は、特定の案件にのみ焦点を当てており、出願人の案件に直接関係しない限り、審査官の広範な行動パターンは通常無視されます。
実例:下記の例では、具体的な不正行為の証拠が必要であることを強調しています。
例えば、上記1)の例では、以下の理由で請願を却下しています。
決定の要点:
出願人は審査官や担当者を選ぶ権利がない: この決定では、先例であるIn re Arnottを引用し、出願人には担当する審査官や、監督審査官(SPE)および他の関係者を選ぶ権利がないとしています。出願の担当審査官の割り当ては、技術センターディレクターおよびSPEの裁量に委ねられており、彼らはその範囲で広範な権限を有しています。
偏見や不適切な行動の証明責任: 出願人は、再割り当てを要求するために、偏見やそれに類する不適切な行動を証明しなければなりません。これは、In re Ovshinskyによって支持されており、局長の監督権限を行使して技術センターディレクターに出願を新たな審査官に割り当てるよう指示するには、こうした偏見が証明されなければならないとしています。本件では、技術センターディレクターに対し、出願を新しい審査官に割り当てる指示を出すに足る偏見や不正行為の具体的な証拠は示されていません。
出願人が主張した不適切行為の審査: 特許庁は、出願人の不満とともに出願の記録を詳細に調査しましたが、審査官や監督者による偏見や不適切な行動は見られませんでした。
Office Action(審査応答書)のタイミング: 出願における応答書の遅延は異常ではなく、特別な遅延や不正行為は確認されませんでした。
主張された発言: 申請者は、審査官や監督者が偏見を示す発言をしたと主張しましたが、これらの主張は文脈に欠け、裏付けがなく、偏見を示す十分な証拠にはなりませんでした。
拒絶に関する意見の相違: 出願人は、審査官が不適切な拒絶や制限を行ったことが偏見の証拠だと主張しましたが、単なる意見の相違は偏見の証拠とはならないとしています。審査過程において意見の相違は通常のことであり、これはLear, Inc. v. Adkinsで確立された事実です。
偏見の証拠は見られない: 最終的に、 出願人の主張は、審査官や監督者による偏見や不正行為を示すものではないと判断されました。特許の適格性や請求項の制限に関する意見の相違は、偏見や不適切な行動を意味するものではなく、審査官の交代を正当化するものではありません。
戦略的考慮事項:
強力な証拠を収集する:不適切な行動を示す明確な証拠を揃えることが不可欠です。技術の理解不足や先行技術の解釈に関する一般的な不満では不十分です。手続き上の不備や個人的な偏見の証拠が必要です。
アピールがより良い選択肢かもしれない:申請プロセスに費やすよりも、審査官との意見の相違については特許審判部(PTAB)へのアピールを検討したほうが現実的な解決策となることが多いです。
審査官の交代にはリスクがある:仮に交代が成功したとしても、新しい審査官がより有利であるという保証はありません。場合によっては、現在の審査官やその上司との交渉や協力を模索する方が得策かもしれません。